徒然(電気雑記)

 

10 電子回路(1)B:アナログB

10.a 発振回路(oscillation circuit)

f.演算増幅回路においてオペアンプの安定化を図るために負帰還回路を形成することについて述べたが、帰還回路としては他に正帰還回路がある。この正帰還の場合は図9−15において出力電圧と入力電圧の比の電圧利得Atは次式になる。

At=So/Se=A/(1−AF)                                  (10・a・1)

この式から分かるように利得は非常に大きくなる。そして、AF=1の場合には利得が無限大になる。利得が無限大になると入力信号が0であっても出力信号が0にならない。すなわち、この回路で発振が生じる。発振が生じると発振振幅は増大していくが、発振振幅が増大するに従い回路全体においてエネルギーの消費が大きくなり、ある振幅で安定した発振状態になる。ここで、ループ利得AFは複素数となり、実数部は発振電力条件であり次式となる。

Re(AF)≧1                                            (10・a・2)

虚数部は発振周波数条件で次式になる。

Im(AF)=0                                            (10・a・3)

発振回路には上述の正帰還発振回路のほかには負性抵抗を利用する方法がある。以下でこれらについて述べる。正帰還発振回路にはLC反結合型発振回路(同調型結合:コレクタ同調型、ベース同調型、エミッタ同調型;ハートレー回路;コルピッツ回路)、水晶発振回路(ハートレー回路;コルピッツ回路;エミッタ帰還回路)、CR発振回路(移相型;ウイーンブリッジ型)がある。

同調形発振回路(tuned oscillation circuit):この回路の一例は図10−1に示すようにエミッタ接地のコレクタ同調形発振回路である。これはコレクタからベースに正帰還を行っている。この場合の発振角周波数ωは次式となる。

ω=1/(LC)1/2                                        (10・a・4)

発振条件は次式となる。

gm≧n/r0     n=L1/L2                               (10・a・5)

gm≧n/r0 で、nはn=L1/L2 である。そして、L1とL2は逆位相になるように設定される。

コルピッツ発振回路(Colpitts oscilation circuit):この回路は図10−2(a)で示すような回路でC1−L−C2のπ形になっており、これよりベースに正帰還させている。この場合の発振角周波数ωは次式となる。

ω={(C1+C2)/LC1C2}                                 (10・a・6)

発振条件は次式となる。

gmr0≧C2/C1                                         (10・a・7)

ハートレー発振回路(Hartley oscilation circuit):この回路は図10−2(b)で示すような回路でL1−C−L2のπ形になっており、これよりベースに正帰還させている。この場合の発振角周波数ωは次式となる。

ω=1/{(L1+L2)C}1/2                                  (10・a・8) 

発振条件は次式になる。

gmr0≧L1/L2                                         (10・a・9)

 

図10−1 同調形発振回路(コレクタ同調)

図10−2 (a)コルピッツ発振回路  (b)ハートレー発振回路

移相形RC発振回路(phase shift type RC oscilation circuit):この回路は図10−3に示すような回路でこの場合は並列抵抗移相形発振回路で、この回路のCのところにR、RのところにCを起きた場合は並列容量移相形発振回路と呼ぶ。この図の場合はコレクタからの信号をベースに正帰還で帰還させるためRとCによって順次移相をずらせて、ベースのところで180゜遅らせる方法を用いる。そこで、発振角周波数はωは次式になる。

ω=1/{(6)1/2CR}                                   (10・a・10)

並列容量型の場合は発振角周波数はωは次式になる。

ω=(6)1/2/CR                                      (10・a・11)

 

図10−3 移相形RC発振回路

  (a)       (b)

図10−4 (a)水晶振動子の回路記号   (b)等価回路

水晶発振回路(quartz oscilation circuit):水晶の結晶軸に対してある角度に切り取り両面に電極を形成し、これに交流電圧を加えると厚み方向に機械的に振動する。すなわち、圧電素子と呼ばれる。そして、交流周波数が固有振動周波数と一致すると共振現象が生じ、大きく振動する。この水晶振動子の回路記号は図10−4(a)で示すもので、これの等価回路は図10−4(b)に示すようなものである。この場合のインピーダンスのリアクタンスは周波数が直列共振周波数 fs=1/{2π(L0C0)1/2} 以下では容量性を示し、fs 以上で並列共振周波数 fp=(1/2π){(1/L0)(1/C0+1/C1)}1/2} 以下では誘導性を示し、fsとfpとの間隔が狭いので、この間において水晶発振回路を発振させると安定な発振が得られる。なお、水晶発振子は結晶軸に対してATカット面、GTカット面のような特殊なカット面を選ぶと発振周波数が温度変化のないものにできる。そこで、図10−5で示すように、コルピッツ発振回路のLのところに、またハートレー発振回路のLのところに水晶発振子を置くことにより発振が得られる。

図10−5 (a)コルピッツ水晶発振回路  (b)ハートレー水晶発振回路

図10−6 ウイーンブリッジ発振回路

ウイーンブリッジ発振回路(Wien bridge oscilation circuit):この回路を図10−6に示す。ウイーンブリッジの各辺1、2、3、4においてオペアンプの出力端子を1と3の交点にアース端子を2と4の交点に接続し、非反転入力端子を1と2の交点に反転入力端子を3と4の交点に接続する。この場合、発振各周波数ωは次式になる。

ω=1/(R1R2C1C2)1/2                               (10・a・12)

発振条件は次式である。

1+R3/R4≧1+R1/R2+C2/C1                        (10・a・13)

負性抵抗発振回路(negative resistance oscilation circuit):一般の回路で使われる受動素子の抵抗は正抵抗で電力を消費するが、能動素子でたとえば図10−7に示すトンネルダイオードのような特殊なダイオードでは静特性のI−V特性において負性抵抗を示す。曲線bcでは正抵抗で、cdでは負性抵抗を示す。このような場合図10−8に示すような回路にすると発振が得られる。この回路の発振条件は次式である。

R=L/CRs                                       (10・a・14)

発振周波数f0は次式である。

f0={1/2π(LC)1/2}(1−R/Rs)1/2                       (10・a・15)

ここで、トンネルダイオードの動作を説明する。図には電流−電圧特性とダイオードに電圧を加えた場合のエネルギーバンド構造が示されている。この構造はPN接合ダイオードではあるが、P形、N形の両方とも不純物濃度が1018/cm3以上の非常に濃い状態でP形の価電子帯の上部とアクセプタの不純物準位が縮退し、N形の伝導帯の下部とドナーの不純物準位が縮退した状態である。このような場合、まず、逆方向電圧(すなわちP形電極に負の電圧、N形電極に正の電圧)を加えると従来のPN接合ダイオードではほとんど電流は流れないが、この場合はそれぞれの正孔、電子がトンネル現象により接合部の空乏層を通過する。すなわち、電圧に応じて電流が流れる。これがI−V特性上の曲線abである。次に、順方向電圧を加えると図(c)に示すようにやはりトンネリング現象により電流が流れる。しかし、電圧が順方向電圧が上がるとバンド構造上図(d)に示すように、P形の正孔のエネルギー位置はN形の禁止帯のエネルギー位置になり、N形の電子のエネルギー位置はP形の禁止帯のエネルギー位置になるためトンネル電流は流れないが、従来のPN接合ダイオードの順方向電流が少し流れる状態になる。これが曲線cdでこの部分では負性抵抗が生じる。極小点dからは徐々に従来の順方向電流が電圧と共に増加していく。このようなトンネルダイオード(tunnel diode)は発明者の名をとり、江崎ダイオード(Esaki diode)とも呼んでいる。

図10−7 トンネルダイオードの原理と電流−電圧特性

図10−8 負性抵抗発振回路

図10−9 搬送波と信号波と振幅変調波

 

10.b 変調回路(modulation circuit)と復調回路(demodulation circuit)

情報信号(signal)を送信(transmission)するときは一定の周波数の搬送波(carrier wave)に情報信号を乗せて送信する。このような搬送波に情報信号を乗せる作用をするのを変調と呼ぶ。そして、搬送波に乗せられた情報信号を情報信号のみを取り出すのが復調と呼ぶ。正弦波の搬送波をV0cos(ω0t+φ0)とすと、V0は振幅で、ω0は角周波数で、φ0は位相以下であり、情報信号を振幅に乗せるのを振幅変調、角周波数に乗せるのを周波数変調、φ0に乗せるのを位相変調と呼ぶ。これらの被変調波が送信されると受信するときには被変調波から情報信号を取り出す必要がある。この情報信号を取り出すことを復調と呼ぶ。以下において変調回路と復調回路について述べる。

10.b.1 振幅変調回路および復調回路

振幅変調回路(amplitude modulation circuit):ラジオ放送のAM放送において使われているように音声信号で搬送波の振幅を変調させ方法が振幅変調である。いま搬送波をe0とすると e0=E0sinct で表すことができ、信号波をesとすると es=Essinst で表すことができる。そこで、搬送波を信号波で次のように変調すると被変調波eは次式になる。

e=Ec(1+msinst)sinct                               (10・b・1)

ここで、m=Es/Ecで、これを変調度と呼ぶ。m≦1の場合は図10−9に示すように搬送波、信号波、変調波が表される。変調波の包絡線が信号波になる。さらに被変調波eは次式のように書き換えられる。

e=Ecsinct−(m/2)Eccos(c+s)t+(m/2)Eccos(c−s)t       (10・b・2)

この式と図10−10から分かるように振幅変調波の角周波数分布は搬送波の各周波数cの両側のs離れたところに正弦波が生じる。これを側帯波(side band)と呼び+s側を上側帯波と呼び、−s側を下側帯波と呼ぶ。側帯波を含めた周波数帯を占有周波数帯域と呼ぶ。以上のような振幅変調を実現するには図7−11に示すような回路のようにベースから搬送波(Ecsinct)と信号波(Essinst)を加え(ec+es)L0、C0の共振器(占有周波数帯域)を通すことにより、上式の非変調波eを出力することができる。

図10−10 振幅変調波の角周波数分布

図10−11 振幅変調回路

振幅変調の復調回路(demodulation circuit of amplitude modulation):振幅変調の復調回路は図10−12に示すような回路でダイオードの整流作用を使い、変調波の正の部分を検波し、ダイオードの後にあるコンデンサと抵抗により、搬送波部分を平滑し、包絡線を得ることができる。これが求める信号波になる。他にヘテロダイン検波がある。これはアンテナからの入力に搬送波と局部発振器(local oscillator)からの電波とを混合し、搬送波と局部発振周波数とのうなりを生じさせ、搬送波の周波数が非常に大きいとき(たとえばVHF(very high frequency)UHF(ultra high frequency)SHF(super high frequency))にはより低い周波数(中間周波数)に落として検波する方式を行う方法を他励ヘテロダイン検波と言う。検波器と局部発振器を兼ねさせる方式を自励ヘテロダイン検波と言う。図10−13に示すように他励ヘテロダイン検波に増幅機能を加えて信号波を取り出す方式をスーパーヘテロダイン方式と言う。

図10−12 振幅変調のダイオードによる復調回路

図10−13 スーパーヘテロダイン方式

10.b.2 周波数変調、位相変調、および復調回路

周波数変調(frequency modulation):被周波数変調波e=E0sinω(t) で周波数変調の信号波の時間微分はdω(t)/dt=ωc+△ωsinstであるためω(t)=ωct−(△ω/s)cosst となり、被周波数変調波eは次式になる。

e=E0sin{ωct−(△ω/s)cosst}=E0sin(ωct−mfcosst)          (10・b・3)

これを波形で示すと図10−14に示すようになる。また、この周波数変調回路を図10−15に示す。コレクタ側のLC共振器のCの部分に可変容量ダイオードを並列に接続し、共振器の一部として作用させる。この可変容量ダイオード(バラクタダイオード)は印加電圧によりダイオードの空乏層の厚さが変わり容量が変化するため、これに信号を印加すると容量が変化し、共振周波数が変化することにより周波数変調が可能となる。

位相変調(phase modulation):被周波数変調波e=E0sinω(t) で位相変調の場合はω(t)=ωct+△φsinst となり、e=E0sin(ωct+△φsinst) となり、式の様式から見ると上述の周波数変調と同じになる。 

図10−14 周波数変調波形

図10−15 周波数変調回路

周波数変調の復調回路:周波数変調波は基本的には振幅が一定で、周波数のみが信号に応じて変化している。そこで、これを復調するということは周波数を判別し、信号を取り出す必要がある。これを周波数弁別(frequency discrimination)といい、一般には周波数の変化を直線性よく出力電圧として取り出すことである。この復調回路として図10−16にフォスターシーレ(Foster−Seeley)形弁別回路を示す。この回路で入力側の共振回路と出力側の共振回路の共振周波数を同じf0にしている。入力周波数がf0のときはD1とD2に加わる電圧が同じになり、出力V1−V2は0になる。入力周波数がf0より低いときにはD2に加わる電圧が大きくなりD1に加わる電圧が小さくなり、出力は負になる。また、入力周波数がf0より大きいときは出力電圧が正になり図10−16右図に示すような電圧ー入力周波数特性が得られ周波数弁別が可能になる。

図10−16 フォスターシーレー形弁別回路

 

 

 

 

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