徒然(電気雑記)

 

8 IC製造後工程

8.a 組み立て(assembly)

組立工程フローは図8−1に示している。以下にそれぞれの工程について説明する。

図8−1 組み立てフロー

裏面加工(back side forming):ウエーハが種々の製造プロセスを経て行くには取り扱い上厚さは500〜750μm程度の厚さが強度上必要である。しかし、このままでは組み立て上からは厚すぎるためこれを100〜200μm程度にまで薄くする必要がある。そこで、薄くする方法としては初期の時期では裏面を研磨剤で研磨するか薬品によるエッチングによっていたが、今はバックグラインダを用いている。裏面に導電性電極が必要な場合は金蒸着などの処理をするか、裏面接着剤を導電性のある樹脂を使用する。

ダイシング(dicing):ウエーハを粘着性のあるシートに貼り、図8−1に示すようにウエーハには各ICの境界には60μm程度の幅のスクライブレーンが設けられており、この領域にはIC部品が作られていない。このスクライブレーンの中央線上を先端がダイヤモンド粉が塗布された〜20μm厚の回転刃でもってスクライブ(ウエーハ表面〜50μmの深さの切り込みを入れる)する。この後、シートを広げる(エキスパンド)ことによりスクライブレーンに沿って破断し各ICをチップ状(ダイス状)に分離する(これをダイシングと呼ぶ)。

ダイボンディング(die bonding):分離されたチップをプリント基板の配線と結線するためにリードフレームを介する必要がある。リードフレームはFe・Ni(鉄・ニッケル)、Cu(銅)などの金属板でできており、図では1チップ分を示しているが1連のリードフレームは10個分程度が連なっている。リードフレームは図に示されているようにチップを載せるダイパッド、ダイパッドからプリント基板に結線するために使われるリード、ダイパッドをフレームに結び付けて支えるタイバ、リードをフレームに結びつけるダムバなどからできている。チップをリードフレームのダイパッド上に接着する。接着剤は近年はエポキシ樹脂によるものがほとんどでこれにも導電性のもの(銀などを含むもの)、絶縁性のもの、高熱伝導度のものがICチップの要求により選択される。高出力ICなどではPb・Snはんだ、金・シリコン共晶が使われる場合もある。材質は小電力のICのばあいはFe・Niが薄くても強度があるので使われ、高出力ICの場合は銅が使われる。銅は柔軟であるので少し熱伝導はわるいが強度が増すためりん青銅などの銅合金も使われる。リードフレームの厚さは100〜500μm程度のものが使われる。ダイボンディングされるチップは第一検査で合格したチップ(良品チップ)である(自動で不良品の印しを識別する)。

ワイヤボンディング(wirebonding):ダイパッド上のチップ上のアルミニウムのボンディングパッドとリードフレームのリードとを結線するのがワイヤボンディングでこのワイヤボンディングのワイヤは大半がアルミニウム線で金線も時に使われる。線の太さは25μmのものが多い。線をパッドやリードに接着するには超音波ウエッジボンディングが使われる。

樹脂封止(plastic seal):リードフレーム上のチップやワイヤなどを外界から保護するためにエポキシ樹脂で覆う必要がある。より密封性を完全にするためにはセラミック容器内に入れるセラミックパッケージがあるが、コストが高いためほとんどがエポキシ樹脂によるプラスチックパッケージが使われる。この封止の方法は、パッケージの形状に放電加工でくりぬかれた金型で、リードフレームを上下より加圧固定し、170℃程度に加熱し、50〜100kg/cm2の圧力で樹脂を注入して成形するトランスファ成形が使われる。一般には封止後170℃程度の加熱炉で3〜10時間加熱し樹脂を硬化させる(ポストキュア)。ポストキュアが必要ない樹脂もある。最近は樹脂厚も1mm程度の非常に薄いものが求められ、高耐湿性、低応力、高純度などの樹脂が研究されている。

リード仕上げ(lead forming):リードフレームがタイバやダムバなどでつながっているのでこれらを切断し、図の場合はDILパッケージでプリント基板に差し込む方式のリードであるがこのような最終の形状に仕上げる。

パッケージ(package)の種類:パッケージにはいろいろな種類があるが、概略すれば図8−2のようなものになる。初期のものはプリント基板の銅箔のない側から垂直に挿入し、銅箔配線に半田付けする方法が使われていた。そのため、パッケージもそれにあった形状で、一つはSIL(single in line)パッケージ(SIPと呼ぶ)で2〜21本のリードが一列に並んだものである。この場合のリード間隔は100milである。そして、DIL(dual in line)パッケージ(DIPと呼ぶ)はパッケージの両側からリードが直角に出ており、2列にリードが並んだものである。この場合のパッケージの厚さは5mm程度でリードの数は8〜64本でリードの間隔は70milのものがある。また一つにピングリッドアレイパッケージがある。これはパッケージの下側の前面からパッケージに垂直にリードが出ており、非常に多くのリードが可能になる。この場合のリードの数は72〜172本のものがある。これらのパッケージはプリント基板上にできるだけ多く配列できるようパッケージの大きさをできるだけ小さく、リード線間隔も短くする工夫がいろいろなされ、シュリンクパッケージなどが開発されたが、電子機器の小形化が急激に進み実装技術が進む中で表面実装が採用されるようになり、これに合わせてパッケージもいろいろ開発されて来た。表面実装にするとプリント基板が両面使え、実装密度が非常に上がり、プリント基板を貫通させる必要がないので、リード線幅も細くリード線間隔も短くすることが可能になる。そこで、急激に表面実装用のパッケージが使われるようになった。一つはガルウイング方式のパッケージで図のようにリード線がかもめの羽根のように出ているもの(Lリードとも呼ぶ)、また、リード線の出方がJの字に似たような出方をしている。現在は多くのものがガルウイング方式が多い。図に示しているのはDIL方式(SOP:small outline packageと呼ぶ)である。この場合のパッケージの厚さは1.5〜3mmで、リード間隔は50milでリードの数は8〜28本のものがある。また、四角な形状で四方にガルウイング方式で出ているものもある(QFP:quad flat packageと呼ぶ)。この場合のパッケージの厚さは1.5〜3mmで、リード間隔は50milでリードの数は44〜100本のものがある。これらの表面実装方式のパッケージをフラットパッケージとも呼んでいる。さらにSOP、QFPのパッケージの厚さをうすくしたものでTSOP(thin SOP)、TQFPがある(厚さ1mm)。表面実装方式の一つにパッケージからリード線が出ておらずパッケージの裏の四方の端に電極が付いているもので、配線に電極と直接接着させる方式でチップ・キャリアと呼ばれている。さらにパッケージの裏に多くの電極があり、これらをエリアアレイ端子と呼ばれており、これらの端子がボール状の半田などでできており、配線に直接接着できるようになっているBGA(ボールグリッドアレイ)がある。さらに従来のパッケージでは小さくするのに限界があるので、従来は上述のようにワイヤボンディング方式が採られていたがチップの電極にバンプ(金や半田)と呼ばれる突起状の電極にしてこれをリードフレーム上に直接接着したり、プリント配線に直接接着する方法(フリップチップ方式)が開発されている。このような場合の表面保護は液状の封止剤が使われている。

図8−2 パッケージ実装形状

8.b 検査(test)

ウエーハの状態でICを作りこまれ保護膜を形成した(IC製造前工程)後にICが設計どおりに作られているかどうかを検査する必要がある(第一次検査)。検査なしですべてのチップを組み立てた後にICの良否を判定することは非常に無駄が多くコストに大きく跳ね返る。そこで、ウエーハ状態で各ICの良否を判定するが必ずしもすべての電気特性を計測できるわけではない。たとえば熱的には問題があり、実動作においてはパッケージ状態とは異なる場合が多い。検査のフロー図を図8−3に示す。検査はテスタによりフローどおりプログラム全ボンディングパッドにプローブをあてて電気信号を流して検査する。流れの基本はまず非常に簡単な電気的なこと、すなわち、電極間のショートしていてはいけないところがショートしているかどうか、また、断線していてはいけない電極間が断線しているかどうかが調べられる。これらの検査で不良が見つかればIC上に赤インク印やプローブで表面に傷を付け不良品を印し付ける。不良の場合はその段階で検査を中止し、次のICの検査を行う。良品はさらに基本的な直流的な機能で許容値内にあるかどうかを検査する。そして、さらにリークや簡単な交流信号に対する検査などを行う。図には最大電流以降の判定が書かれているが、これはパッケージ後の最終検査が主である。

図8−3 検査フロー

8.c 信頼性(reliability)

開発、生産されたICが市場に出され種々の電気機器に組み込まれていきそれぞれの電気機器が市場で満足に性能を発揮するには部品個々の全製品が満足に性能を発揮する必要がある。すなわち、ICが各ユーザに行く前に厳重に設計時に考えた環境内で十分に性能を発揮するかどうかを見極め信頼性のあるものにしておく必要がある。すなわち、信頼性とは「部品やシステムが与えられた条件で、規定の期間中、要求された機能を果たす能力」であり、信頼度は「機能を果たす確率」である。信頼性を評価するには直感的にわかりやすい故障率(failure rate)λとの関係から示す。システムの故障率λは各部品の故障率λi(i=1,2,3,・・・・)とすると次式になる。

λ=Σλi=1/MTBF                                 (8・c・1)

ここで、MTBF:mean time between failures(故障するまでの平均動作時間)    このシステムの信頼度R(t)は次式になる。

R(t)=exp(−λt)                                   (8・c・2)

ICの故障率の時間的推移は図8−4に示すようなバスタブ・カーブにそうと考えられている。初期の段階は製造上の欠陥などにより故障率(early failure)が高く時間とともにスクリーニング(ふるい落とすscreening)されて、故障率が低い状態で安定する(steady state)。この期間の故障は不特定な偶発的故障が起こる。さらに時間がたつとそのものの寿命による故障が時間とともに増加する。この期間を摩耗故障期(wearout)と呼んでいる。ICは集積度の増大と微細化に伴い酸化膜や配線などの欠陥により初期故障を低減させることは非常に難しくなってきている。DRAMのように大規模ICの場合では市場に出てからの初期故障を小さくするためにバーイン(burn−in)と呼ばれる工程を出荷前に行っている。すなわち、ICを高温下で一定時間動作させ、強制的に初期故障を起こさせ、スクリーニングして出荷している。故障率の単位としてFIT(Failure unIT)が使われている。1FITは1故障/109個・時間、すなわち、10億個のICを寿命試験かけたとき1時間に1個故障する場合を言う。一般のICの故障率は数100FIT以下である。

図8−4 故障率ー時間の関係

8.d ICの環境試験

どのような製品にも言えることであるが、製品を開発し、商品として市場に出すにはいろいろな環境において耐えうるものでなければならない。そこで、開発の最終段階で製品を耐えなければならない環境を想定し、その環境に製品を置き耐えうるものかどうかを試験し、この試験に合格するような製品でなければ開発が完成したといえないのである。ICの場合の主な環境試験(environmental test)項目を以下に示す。

(1)耐熱関係試験(thermal resistance test)

熱衝撃試験(液相):低音(0℃)と高温(100℃)の液体の中に5分毎に交互に浸し、この繰り返しを10回行う。   

温度サイクル試験(気相):最大定格の最低保証温度ー>室温ー>最大定格の最高保証温度の温度サイクルを10回行う。                                                  

高温保存試験:最大定格の最高保証温度で500時間。

(2)耐湿関係試験(moisture resistance test)

THB試験(thermal humidity bias:高温高湿バイアス試験):温度が85℃、湿度85%RH(relative humidity、相対湿度)で断続印加(1時間ON、3時間OFF)または、消費電力の小さいものは、連続印加の動作をさせ500時間。   

高温高湿保存試験:温度60℃、湿度90%RH100時間。                           

プレッシャークッカー(pressure cooker)試験:水蒸気圧2気圧(121℃)中に8時間保存。        

煮沸試験:水中で50時間煮沸する。

(3)耐久性関係試験(endurance test)

高温連続動作試験:温度75℃で最大定格電力または最大定格電源電圧または最大使用電源電圧を印加し、500時間。                                                   

熱疲労試験:温度75℃で最大定格電力または最大定格電源電圧または最大使用電源電圧印加(5分ON、5分OFF)し、500時間。

(4)はんだ関係試験(soldering test)

はんだ付け性試験:60℃、90%RHの温湿度槽中に168時間放置した後、フラックスに端子を浸し、230℃のはんだ中に3秒浸す。はんだ耐熱性試験:270℃、10秒または350℃、3秒はんだ中に浸す。

(5)機械環境関係試験(mechanical environmental test)ーーー落下試験、端子強度試験

(6)破壊試験(destructive test)

静電破壊試験:コンデンサ容量に電圧をパラメータにして100〜200pF充電し、各端子間および各端子・アース間に放電する。

(7)特殊環境試験(special environmental test)ーーー塩水噴霧試験

(8)その他の試験ーーー構造設計目視検査、端子間リーク試験

8.e IC故障要因(failure mechanisms of IC)

(1)酸化膜の破壊(electrostatic breakdown of oxide film)

ICの構造上、酸化膜はMOSFETのゲート酸化膜をはじめとして配線などの層間絶縁膜と非常に重要な役割をしており、これの絶縁破壊による故障は問題は重要である。酸化膜の真性破壊は〜10MV/cmで、この原因は電子のFN(Fowler-Nordheim)トンネルによるもので、カソードより注入された電子が電界によりエネルギーを得て、原子に衝突電離により電子・正孔対を生じる。この時、電子はアノードへ瞬時に入ってしまうが、比較的動きにくい正孔雲が酸化膜中に残る。この正電荷により大きな電子電流がさらに流れることになり酸化膜の破壊にいたる。この真性破壊以外に0〜1MV/cmや3〜5MV/cmのあたりの電界で破壊する場合がある。前者の場合の破壊は酸化膜中にピンホール(損傷)ができたことによるもので、後者の破壊は酸化膜の欠陥によるものである。                    

このような酸化膜を外界から破壊されることがある。これが静電破壊である。静電気は物の動きにによる空気との摩擦や物同士の摩擦により簡単に数100〜数1000Vの電圧が発生する。そして、人体の電気容量は200〜250pFで、抵抗は1〜2kΩである。たとえば、200pF、1kΩの人体が2000Vに帯電した場合、人体に約0.4mjouleのエネルギーが蓄えられる。この静電気が時定数約0.1μsecでICの端子に放電されたとすると平均数kVにも達して、ICを破壊する。このようなことから人がICを検査するときには手首にアースバンドをする。一方、IC側にはチップのパッドの近傍に大きい容量を設けたり、ダイオードなどを付加して外部からの静電気によるスパイク電力を吸収している。

図8−5 エレクトロマイグレーション

(2)配線の故障(failure of conductor)

エレクトロマイグレーション(electro−migration):エレクトロマイグレーションは配線の経年変化による断線の一因で、配線に配線の容量以上の過剰な電流が流れることにより起こる。電流が流れということは電子が配線中を流れることによるもので、カソードからアノードに流れる電子流により金属原子がアノード側に移動する。特にグレインバウンダリ(粒界)などがあると図8−5に示すように金属原子はグレインバウンダリのアノード側に移動しバウンダリに溜まりマウンド状に成長し、カソード側では金属原子がなくなり空孔が生じボイドに成長し、断線にまでいたる。このエレクトロマイグレーションによる故障時間tFは次式で表される。

tF=CJ-nexp(H/kT)                                 (8・e・1)

ここで、Jは電流密度、Cは定数、nとHはパラメータで、通常はnは1〜3でHは純アルミニウムの場合は0.55±0.1eVである。通常の多結晶金属配線の場合、限界電流密度Jは105〜106A/cm2である。上述の原理によるため重い金属原子による配線がより有利であることが分かるが他の条件とを勘案した場合銅などがよい。アルミニウムの場合エレクトロマイグレーションに強くするためにCuを0.5〜4%ほど添加する。Cuは粒界に沿うて入りやすく、粒界に沿うてAl原子の移動を防ぐ。

ストレスマイグレーション(stress−migration:配線は上下の層に絶縁膜や保護膜で挟まれており、配線自身が表面に凸凹を形成するため絶縁膜や保護膜から強い応力を受ける。この応力により、応力の方向に配線のAl原子の移動が起こり、ボイドが生じ、断線が生じる。これの対策としてCuなどを添加すると効果がある。また、絶縁膜や保護膜が応力の加わりにくいような形成方法にすることと構造が応力の加わりにくい構造にする必要がある。

コロージョン(corrosion、腐食):上述したようにICはほとんどがプラスチックパッケージで保護されているが、プラスチックパッケージは外界の水分を完全にはシャトアウトできない。このため、水分が浸入した場合、さらに水分に塩分などが含まれていた場合、これらによりAlとの反応が起こりAlが腐食され、配線が断線にいたる。この反応を以下に示す。                                       カソード側で水と以下のような反応が起こる。

2Al+6H+ →2Al+3+3H2                               (8・e・2)       

2Al+3+6H2O →2Al(OH)3+6H+                         (8・e・3)

一方、アノード側で水分に塩素が含まれていると以下のような反応が起こる。

Al+4Cl- →Al(Cl)4-+3e-                              (8・e・4)    

2AlCl4-+6H2O →2Al(OH)3+6H++8Cl-                    (8・e・5)

以上のような反応が起こり水分および塩分がAl配線を腐食し断線にいたらしめる。この水分、塩分などを完全にはシャットアウトはできないができるだけ被害を最小限にするため、パッケージの樹脂などの改善、保護膜の改善などが必要である。

アロイスパイク(alloy spike):ICにおいてMOSFETのソースやドレインではSiとAlが直接接しており、その直下にはPN接合部がある。このような場合、後工程の熱処理により、局所的にAlの電極中にSiが拡散し、結果として、SiがなくなったところにAlが侵入し、これがPN接合部までいたる場合がある。これによりPN接合が破壊され、ソースやドレインの役目を果たせなくなり、MOSFETの破壊にいたらしめる。この現象をアロイスパイクと呼んでいる。この対策として、Al配線に1%程度Siを添加しておく方法が採られている。またはAlとSiの間にTi(チタニウム)、W(タングステン)などの金属をバリアメタルとして入れる方式も採られている。

(3)α線ソフトエラー(α−particle−induced soft error)

α線(He原子核)により半導体メモリのメモリー部に電荷を発生させ、メモリーを一時的に誤動作させる。これがソフトエラーである。このα線の発生源はパッケージ樹脂に含めるフィラー(filler:充填剤)に使っているシリカである。これには天然のシリカが使っており、天然シリカには微量のU(ウラン)、Th(トリウム)などの放射性元素が含まれており、5〜6MeVのエネルギーを持っており、シリコン基板に入社した場合、25μm程度の深さまでα線が侵入する。そして、Si原子と衝突し、約1.4×106個の電子・正孔対が発生する。これの対策として化学反応で製造されたシリカを使うことによってこれをなくす。そして、チップ表面にポリイミド樹脂やシリコンゴムなどを厚く塗布することによりα線から保護している。

8.f 評価・解析(evaluation・analysis)

ICの微細化によりウエーハの表面近くの微小領域の結晶欠陥や不純物などの解析が非常に重要になってきた。また、表面形状観察においても初期においては100倍程度の金属顕微鏡で十分であった。しかし、現在では電子顕微鏡が必要である。また、形状観測には他にもSPMが多用されている。深さ方向の観測にはTEMが有効であり、表面の元素解析にはSAM、optical spectroscopy(光分光:FTIR、FTPL)、radiochemical techniques(放射科学技術)などが有効であり、深さ方向の元素分析にSIMSが有効である。また、薄膜の構造などを見るにはRBS、XRF、XRD、XRTなどが有効である。以下にこれらについて説明する。

SEM(scanning electron microscopy):SEMは電子顕微鏡のことで微小な表面形状(1nm以下のものも可能)を観察するのに適している。原理図は図8−6に示すように装置全体が真空の中に置かれており、フィラメントから飛び出た電子は陽極により加速され(5〜30keV)、収束レンズで1μmほどに絞りこれを走査電子ビームでx軸、y軸に走査し、対物レンズを通して対象位置に当てる。非検物に電子ビームが照射されると照射位置から0〜50eVとエネルギーの低い2次電子が放射される。この2次電子は表面形状に非常に敏感なため観察可能になる。サンプル表面は5〜10nmの厚さにコーティングしておくほうがよく一般にはAu,AuPd、Pt、PtIr、Agなどのスパッタあるいは加熱蒸着でコーティングされる。

ストロボSEM(stroboscopic SEM):ICの回路上にSEMの電子ビームを当て、ビームの位置と回路に加える電気信号とを同期させて、SEM観察すると電気信号により回路に電位が加わり回路パターン上の電子ビームに影響を与えるため、パターンの映像に濃淡の変化が生じるため回路における電位の異常(不良箇所)が観測される。

TEM(transmission electron microscopy、透過電子顕微鏡):上述のように形状観察はSEMが手軽で、有効である。ところが深さ方向の微細構造(結晶欠陥、界面など)を観察するにはこのTEMが必要になる。TEMは資料を200μm程度に薄くし、100〜400keVの電子ビームを当て資料を透過させ、透過した電子ビームを電磁レンズで拡大し、2,000〜200,000倍にして観察する。また、さらに原子レベルまで見るには500,000倍以上にまでする必要があり、いろいろ工夫されている。

SPM(scanning probe microscopy):表面形状の観察に近年非常に有効な手段になっている。先端の鋭いプローブを試料の表面上を走査させて、表面形状を観察する方法で、図8−7に原理図を示す。これには2種類あり、一つはSTM(scanning tunneling microscope)で、後一つはAFM(atomic force microscope)である。STMは図の上図に示すようにx軸、y軸、z軸に短冊状のピエゾ電圧素子持ちxyz軸交点上に電導性のプローブをつけて、表面は導電性の試料であると電圧を印加したプローブを表面に非常に接近させるとプローブの先端部の原子を通して試料の表面との間で微小なトンネル電流が流れる。このトンネル電流が一定になるようにピエゾ電圧素子に電圧を加えてスキャンさせてやり、ピエゾ素子の短冊の伸び縮みを位置と同期計測してやることにより表面の凹凸が観測できる。ATMは下図に示しているように、カンチレバーの先端にプローブを付けて、ブローブと試料間の原子間力をカンチレバーのたわみで計測する。たわみが一定になるようにz軸の位置の変化とプローブ位置とを同期計測する。カンチレバーのたわみはカンチレバーの先端にレーザー光を当てこれを光センサーで位置を検出することにより計測する。このAFM方式はSTMとは違い試料が絶縁物であっても計測が可能であるので、最近は多用されている。5〜50nmの計測が可能であり、原子の大きさまで可能である。

SAM(scanning Auger microscopy):SAMはSEMよりも高真空度にしてやり、試料に3〜5keVの電子ビームを当てると原子の内殻の電子が核外に飛ばされ、この飛ばされた電子殻に外殻の電子が遷移するときに特性X線と元素固有のオージェー電子を放出する。このオージェー電子のエネルギースペクトルを測定することにより元素を特定する。この感度は2.5×1020atoms/cm3である。

FTIR(fourier transform infrared:赤外フーリエ変換):赤外光源の透過吸収または表面吸収を光源を干渉計による測定値のフーリエ変換により分光して不純物を特定する。これの感度は1×1011atoms/cm3である。

NAA(neutron activation analysis、放射化分析):試料を原子炉の熱中性子で照射し、中性子を捕獲した試料からは捕獲と同時に高エネルギーのγ線を放出する。このγ線を測定して元素分析を行う。この方法は非常に感度が高く1010atoms/cm3である。

SIMS(secondary ion mass spectrometry、2次イオン質量分析):試料にCs-またはO-を5〜20keVのエネルギーで試料に当てると試料の表面の原子がイオンになりたたき出される。このイオンを質量分析することにより試料の元素を特定する。これによるとイオンエッチングにより深さ方向にエッチングが進むために深さ方向の分析ができる。感度は1013〜1015atoms/cm3である。

RBS(Rutherford backscattering spectrometry、ラザフォード後方散乱法):1〜3MeVのイオンHe+またはHe++を照射し、試料の原子により後方にラザフォードさんらんされたイオンを固体検出器によりエネルギースペクトルを分光し、検出角度とエネルギーより試料原子の質量を求め元素の特定を行う。検出感度は原子量の大きい元素ほど高感度であり、感度は5×108atoms/cm3である。

XPS(X−ray photoelectron spectroscopy、X線光電子分光)、ESCA(electron spectroscopy for chemical analysis、化学分析のための電子分光)、UPS(ultraviolet photoelectron spectroscopy、真空紫外光電子分光):X線や紫外線を試料に照射し、試料表面から放出される光電子のエネルギースペクトルを分光して分析する。X線ではAl、MgのKα線などが使われ、紫外線ではHe I共鳴線が使われる。感度は5×1019atoms/cm3である。

TRXF(total reflection X−ray flourescence、全反射蛍光X線法):試料表面に単色のX線が全反射するような小さい傾斜角度(水平面からの角度で0.2°程度)で入射させると垂直方向に蛍光X線が放射される。これを分光分析して試料表面の不純物を特定する。これの感度は6×10atoms/cm3である。

図8−6 SEMの模式図

図8−7 SPM(上部はSTM、下部はAFM)の原理図(Thomas J.Shaffner "Semiconductor Characterization and Analytical Technology"  Proc. IEEE, Vol.88,NO.9,2000,p1416-1437. 

 

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1.電気の基礎

2.電気の発生  (電池;電力発電(水力、火力、原子力、地熱、風力))

3.交流電圧、電流、電力  (交流電圧、電流、電力;受動素子;アナログ計測;インピーダンス)

4.半導体素子  (半導体の基礎[原子における電子軌道、結晶、固体内の電気伝導]、PN接合ダイオード、ショットキーダイオード、LED、レーザーダイオード、フォトダイオード、ガンダイオード、インパットダイオード、バイポーラトランジスタ、MOSFET、JFET・MESFET・HEMT、SCR)

5.集積回路  (バイポーラ集積回路の例、CMOS集積回路の例)

6.IC製造基盤  (シリコン結晶、ウエーハ製作、クリーンシステム)

7.IC製作前工程  (洗浄、ウエットエッチング、リソグラフィ、エピタキシャル成長、絶縁膜形成、ドライエッチング、不純物拡散、導電膜形成、真空)

8.IC製作後工程  (組み立て、検査、信頼性、IC環境試験、IC故障要因、評価解析)

9.電子回路(1)A:アナログA  (単一トランジスタ増幅回路、2段増幅回路、差動増幅回路、定電流電源と定電圧電源、出力段回路、演算増幅器)

10.電子回路(1)B:アナログB  (発振器、変調・復調回路)

11.電子回路(2)デジタル  (パルスの発生、積分・微分回路、論理演算回路、インバータ回路、NAND;NOR回路、フリップフロップ回路、カウンタ回路;レジスタ回路、メモリ回路、A/D;D/Aコンバータ、デジタルの基礎理論)

12.高周波回路  (電磁波、分布定数回路、導波管、方向性結合器、同軸導波管結合器、無反射終端、サーキュレータ、増幅回路、発振回路、衛星放送受信コンバータ、アンテナ)

 

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