徒然(電気雑記)

 

5 集積回路(Integrated Circuits)

かつてはほとんどの電子回路が前述の受動素子や能動素子を一つ一つプリント基板上に半田付けされて作られていた。これらの一つ一つの素子を個別素子と呼ばれている。応用機器の小型化、省電力化のため近年では受動素子、能動素子を小型化しシリコン上に電子回路を作りこむ方法がほとんどの応用機器に使われている。この方法をモノリシックICと呼んでいる。これに対して、高出力電子回路とか高周波電子回路の場合に多いが、すべてがモノリシックICではうまく構成できない場合、種々の基板(例えばアルミナ、金属)上に個別素子やICを集積さる場合がある。これを混成集積回路(ハイブリッドIC)と呼んでいる。通常ICと言う場合はモノリシックICを言う。

集積回路は一片(1チップ)のシリコン上にどれだけの素子の集積できるか(集積度)が重視され、集積度により、名前が付けられている。1チップ当り26個以下の場合をSSISmall−Scale Integration:小規模集積、または102個以下)、211個までがMSIMedium−Scale Integration:中規模集積、または102〜103個)、216個までまたは1000〜数万個規模がLSILarge−Scale Integration:大規模集積、または103〜105個)、221個までまたは10万個程度がVLSIVery−Large−Scale Integration超大規模集積、または105〜107個)、226個までまたは100万個以上がULSIUltra−Large−Scale Integaration:超々大規模集積、または107〜109個)と呼ばれている。109個以上の場合をSLSISuper−Large−Scale Integration)と呼ぶ。

1チップのシリコン上に抵抗、コンデンサ、ダイオード、トランジスタをできるだけ工程数を少なく製作するには製作工程数の一番多いトランジスタの製作する工程をそのまま使うことが必要である。まず、バイポーラトランジスタを用いた簡単な回路を基にして説明する。 TTL回路はデジタル回路で、回路の説明は後述するが図5−1に示されるような素子数の少ないIC(SSI)である。回路である。ここで、D1、D2、D3は直接回路に関係しないので、今は除いて考え、他の部分の回路が製作工程にどのように反映するかを説明する。図5−1のTTLの回路の端子は入力端子VA、VB、VCの3端子とアース(G:接地)端子、直流電源端子、出力端子の計6端子のため、図5−2のシリコンチップ上に示されているように外部電極との接続のためのアルミニウムのボンディングパッド(約100μm□)が周辺に配置されている。パッドに囲まれた部分に4トランジスタ、1ダイオード、4抵抗の計9素子が配置される。これらの素子の配置図が右上図に示されている。これらの素子がどのような構造をしているかを示すために断面を右下図に示している。断面図にはダイオードと抵抗(R3)とトランジスタ(T2:NPNトランジスタ)が示されている。この構造のICを製作するには図5−3に示すような製作工程を経る。ダイオード(D)はトランジスタと同じ構造で、アルミニウム配線でベース、コレクタを同じ配線で接続し、エミッタ・ベース接合ダイオードとして使う。耐圧が必要な場合はベース・コレクタ接合ダイオードを使うと良い。

図5−1 TTLによるNAND回路

図5−2 1チップ上にTTLのNAND回路を製作するための回路図

図5−3 バイポーラICの製作工程(フローチャート)

図5−3から分かるように抵抗を製作するにはNPNトランジスタのベースの製作工程のホウ素(B)拡散層を使う方法がある。この詳細図は図5−4の左図に示されており、シート抵抗(Rs)としては100〜200Ω/□が得られる。例えば2μm幅で長さが20μmの短冊状の場合抵抗値は1〜2kΩのものが得られる。この方法では高い抵抗を得ようとすると抵抗の所要面積が非常に大きくなる。そこで、中央図に示されているように構造としては前述のJFET(接合形電界効果トランジスタ)と同じにすることによりPチャネル(ベース拡散)を上下のゲートN形によりチャネル幅を薄くし実質抵抗値を高くする。このような抵抗をピンチ抵抗と呼ぶ。これにより2k〜10kΩ/□が得られ、ベース拡散抵抗より10倍以上の抵抗値が得られる。一方、低い抵抗値を得るには右図に示されているようなエミッタ拡散層を使う。これにより2〜10Ω/□が得られ、ベース拡散抵抗より1/10の抵抗値が得られる。さらに薄膜抵抗がある。これは図5−5に示すように、酸化膜の上に金属やポリシリコンを蒸着させて作る。金属の場合は抵抗率の高いものが使われる。例えばチタン(Ti)やニクロムなどやWSi2(タングステンシリサイド)、MoSi2(モリブデンシリサイド)などがある。さらにポリシリコン(多結晶シリコン)がある。ポリシリコンの場合は不純物の量により抵抗率が制御できる利点がある。ここで、抵抗(R)とシート抵抗(Rs)との間には次の関係式がある。

 R=LRs/W [Ω]  L:長さ ,W:幅                        (5・1)

 

図5−4 拡散抵抗(ベース拡散抵抗、ピンチ抵抗、エミッタ拡散抵抗)

図5−5 薄膜抵抗

容量の場合は図5−6の左図に示すようにベース拡散層(P)とN形との接合部の空乏層の容量を使う場合とエミッタ拡散層(N+)とベース拡散層(P)との接合部の空乏層の容量を逆バイアスを加えて使う場合があるが、エミッタ拡散層とベース拡散層の接合部の方は降伏電圧が5ボルト程度と低い。これらによると例えば面積1μm2でエミッタ拡散濃度が1020/cm3でベース拡散濃度が1017〜1018の場合は10-3pF程度の値が得られる。また、図98に示すように酸化膜を誘電物質として使用する場合もある。これの場合は10μm角の場合の容量は0.34pFの値が得られる。酸化膜の場合の容量は次式で得られる。

C=εoxWL/T          εox:酸化膜(SiO2)の誘電率  ,T:厚さ   (5・2)

図5−6 接合容量と酸化膜容量

以上のように抵抗やコンデンサ(容量)とバイポーラトランジスタとがどのように共存させてバイポーラICが製作されるかを述べた。ひと昔前の電子機器はアナログ電子機器がほとんどであった。近年では多くの電子機器がデジタル電子機器になっている。アナログとデジタルの違いはアナログは信号が連続した量として取り扱い、デジタルは信号が不連続な飛び飛びの量として取り扱われる。デジタルの場合の量は多くは1と0の2進法で取り扱われ、コンピュータにより処理しやすく、電子回路の大規模化しやすい。アナログ電子機器の場合はバイポーラトランジスタにより構成され、処理速度は速いが消費電力が大きいため大規模集積化は困難であったが、MOS特にCMOSは消費電力が非常に小さくできるので大規模集積化が容易になった。CMOS(Complementary MOS)は図5−7に示すようにNMOSとPMOSを対にして用いるもので図ではインバータ回路が示されており、この場合はNMOSの負荷抵抗としてPMOSを使っている。インバータ回路は入力信号を出力で反転させる。入力信号が1の時は出力信号は0になり、0の時は1になる。論理回路ではNOT回路である。CMOSを用いると入力信号の信号の切換り時にのみ電力が消費されるので非常に省電力になり、大集積化し易い。CMOSの回路レイアウトおよび構造は図5−8に示されている。図5−9はCMOSICの製作工程を示す。

図5−7 CMOSFETのインバータ

図5−8 CMOSの構造

図5−9 MOSICの製作工程(フローチャート)

 

                                      上部へ

                                                   

 

1.電気の基礎

2.電気の発生  (電池;電力発電(水力、火力、原子力、地熱、風力))

3.交流電圧、電流、電力  (交流電圧、電流、電力;受動素子;アナログ計測;インピーダンス)

4.半導体素子  (半導体の基礎[原子における電子軌道、結晶、固体内の電気伝導]、PN接合ダイオード、ショットキーダイオード、LED、レーザーダイオード、フォトダイオード、ガンダイオード、インパットダイオード、バイポーラトランジスタ、MOSFET、JFET・MESFET・HEMT、SCR)

5.集積回路  (バイポーラ集積回路の例、CMOS集積回路の例)

6.IC製造基盤  (シリコン結晶、ウエーハ製作、クリーンシステム)

7.IC製作前工程  (洗浄、ウエットエッチング、リソグラフィ、エピタキシャル成長、絶縁膜形成、ドライエッチング、不純物拡散、導電膜形成、真空)

8.IC製作後工程  (組み立て、検査、信頼性、IC環境試験、IC故障要因、評価解析)

9.電子回路(1)A:アナログA  (単一トランジスタ増幅回路、2段増幅回路、差動増幅回路、定電流電源と定電圧電源、出力段回路、演算増幅器)

10.電子回路(1)B:アナログB  (発振器、変調・復調回路)

11.電子回路(2)デジタル  (パルスの発生、積分・微分回路、論理演算回路、インバータ回路、NAND;NOR回路、フリップフロップ回路、カウンタ回路;レジスタ回路、メモリ回路、A/D;D/Aコンバータ、デジタルの基礎理論)

12.高周波回路  (電磁波、分布定数回路、導波管、方向性結合器、同軸導波管結合器、無反射終端、サーキュレータ、増幅回路、発振回路、衛星放送受信コンバータ、アンテナ)

 

                                            上部へ                                         

 

HOME 趣味1(旅行) 趣味2(絵画他) 趣味3(陶芸) 徒然(電気雑記)

 

 

 

 

inserted by FC2 system