徒然(電気雑記)

 

4 半導体素子(Semiconductor Device)

前述で抵抗(resistor)、コンデンサ(condenser)、コイル(coil)などの受動素子(passive device)について述べた。次にダイオード、トランジスタ、ICなどの能動素子(active device)について述べる。能動素子は自らが作用し、新しい機能を生みだす。これらの能動素子の材料としては半導体物質が使われる。半導体についての簡単な説明は図1−5、1−6、1−7のところで述べたが、半導体は純粋な結晶の時には絶縁物と同じく電気伝導に寄与する荷電子体がほとんどなく電気伝導度(electric conductivity)が非常に低い。しかし、特定の不純物を添加することにより、自由に結晶内を動き得る荷電子体が生じ、電気伝導度が大きくなり、不純物の種類により、負の荷電子体(carrier)の電子(electron)と正の荷電子体の正孔(hole)が生じる。この荷電子体の働きにより、いろいろな機能が生み出される。電子が主の半導体をN形半導体と呼び、正孔が主の半導体をP形半導体と呼ぶ。

4.a 半導体の基礎

4.a.1 原子における電子軌道

原子(atom)は正電荷(positive charge)を持った原子核(atomic nucleus)と負電荷(negative charge)を持った電子からなっており、電子は原子核の周りに存在し、原子核と電子とは電気的引力(electric atractive force)と運動エネルギー(kinetic energy)とで保たれいるが、古典的な考えからすると電磁波(electromanetic wave)のエネルギー放射により原子核とは接触してしまうが、実際には原子核の周りにある状態で電子が存在している。この存在の状態を既述するには量子論(quantum theory)を発展させたシュレディンガーにより導かれたシュレディンガー方程式(Schrodinger equation)による。これは次式で表される。

∂Ψ/∂t=−(2/2m)∇2Ψ+V(,t)Ψ    V(,t)はポテンシャルエネルギー  (4・a・1)

V(,t)が時間的に変化がないとき、すなわち、V(r)のときは時間(time)と空間(space)とで変数分離(variable separation)でき次式になる。

Ψ(,t)を波動関数(wave function)と呼ぶ。

時間の含まないシュレディンガー方程式

[−(2/2m)∇2+V()]ψ()=Eψ()   Ψ=Cψ()exp(−iEt/)     (4・a・2)

ここで、=h/2π、 h:プランク定数(Planck constant) で最小の単位で6.626176×10-34J・s  J:ジュール(Joule)

実際の原子における電子の状態を見るには構造的に一番簡単な水素原子(hydrogen atom)をモデルとする。そして、式(4・a・2)において空間を球関数(spherical functions)で表すと次式になり、これのポテンシャルエネルギーVをクーロン力(Coulomb force)によるものと考え、V=−e2/r として、この解を求める。

[−(2/2m)2{(1/r2)∂(r2∂/∂r)/∂r                                

           +(1/r2sinθ)∂(sinθ∂/∂θ)/∂θ

           +(1/r2sin2θ)∂2/∂φ2}ーe2/r]ψ()=Eψ()               (4・a・3)

波動関数ψ()はrのみの関数と(θ,φ)のみの関数とに変数分離できる。ψ()=R(r)Y(θ,φ)すると次式が得られる。

   (1/r)d2(rR(r))dr2+(2m/2){E+e2/r−(2/2mr2)λ}R(r)=0           (4・a・4)

  −{(1/sinθ)∂(sinθ∂/∂θ)/∂θ+(1/sin2θ)∂2/∂φ2}Y(θ,φ)=λY(θ,φ)  (4・a・5)  

上式の式(4・a・3)、(4・a・4)を解くことにより、各軌道1s、2s、2p、3s、3p、3dの電子の波動関数は次式で表される。

1s   ψ1s=(1/π)1/2(1/a)3/2exp(−r/a)                            (4・a・6)

2s   ψ2s=(1/4)(1/2π)1/2(1/a)3/2(2−r/a)exp(−r/2a)                (4・a・7)

3s   ψ3s=(1/81)(1/3π)1/2(1/a)3/2{27−18(r/a)+2(r/a)2}exp(−r/2a)   (4・a・8)

2py  ψ2py=(1/4)(1/2π)1/2(1/a)3/2(r/a)exp(−r/2a)sinθsinφ          (4・a・9)

2pz  ψ2pz=(1/4)(1/2π)1/2(1/a)3/2(r/a)exp(−r/2a)cosθ             (4・a・10)

3pz  ψ3pz=(1/81)(2/3π)1/2(1/a)3/2(6−r/a)(r/a)exp(−r/3a)cosθ     (4・a・11)

3dz  ψ3dz=(1/81)(1/6π)1/2(1/a)3/2(r/a)2exp(−r/3a)(3cosθ−1)      (4・a・12)

ここで、aはボーア半径でa=0.529Åである。(近浦ほか著”コンピュータによる物理学演習”より)

各軌道の波動関数が以上のように求められる。そこで、各軌道はどのようなものかは電子の存在確率により分かる。動径方向のrからr+drの間に電子の存在する確率は4πr2ψ(r)2であるので波動関数の電子がどのように存在し得るかはこれを計算することにより得られる。これを図4−1、4−2、4−3に示している。

         (a)1s軌道                      (b)2s軌道                        (c)3s軌道

図4−1 電子軌道1s、2s、3s(近浦ほか著”コンピュータによる物理学演習”より)

       (a)2py                  (b)2pz

図4−2 電子軌道2py、2pz(近浦ほか著”コンピュータによる物理学演習”より)

             (a)3pz              (b)3dz

図4−3 電子軌道3pz、3dz(近浦ほか著”コンピュータによる物理学演習”より)

4.a.2 結晶(crystal)

物質は存在状態で見ると大きく分けて、気体、液体、固体に分けられる。気体(gas)は各原子、各分子間の結びつきが非常に弱く、各原子ごと、各分子ごとで自由に空間中を運動している状態である。液体(liquid)は気体よりは各原子、各分子間の結びつきが強く、表面張力(surface tension)などの力で空間においてある塊で存在するが形状は外界に条件により、自由に形状が変わりえる。固体(solid)は各原子、各分子間の結びつきが非常に強く、外界の条件により、自由に変化することなく初期の形状を保ったままで存在する。この固体物質には構成元素が規則正しく立体的に並んでいる単結晶(single crystal)、部分的に単結晶のものが不規則に並んでいる多結晶(polycrystal)、構成元素が規則的には配置されているが、元素間の間隔、角度などが不規則に並んでいるアモルファス(amorphous)などがある。単結晶には図4−4に示すような簡単な結合状態の格子が規則正しく並んだ結晶もあるが、シリコン単結晶は複雑で図4−5に示すようなダイヤモンド構造(diamond structure)と呼ばれる格子が規則正しく並んだ単結晶である。図4−4には簡単な基本的な格子を示しており、一番簡単な格子が単純立方格子(simple cubic lattice)と呼ばれるもので、立方体の8個の角に原子が位置するもので、これにはリン(P)やマンガン(Mn)の単結晶などがある。ついで、体心立方格子(body centered cubic lattice)でこれは単純立方格子の中心に一つ格子が増えた状態で、これにはナトリウム(Na)、タングステン(W)の単結晶がある。さらに面心立方格子(face centered cubic lattice)があり、これは単純立方格子の各面すなわち6面の面中心に格子が増えた状態でアルミニウム(Al)、金(Au)などがある。ダイヤモンド構造は一つの面心立方格子に対角線上に1/4格子間隔だけずらした面心立法格子の重なりである。この構造にはダイヤモンド(C)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)などがある。このような格子のほかに3斜晶系、単斜晶系、斜方晶系、正方晶系、6方晶系、稜面体晶系がある。これに対して、シリコン結晶は図4−5に示すようなダイヤモンド構造をしており、これは一つの面心立方格子とこれに1/4格子<111>方向にずれたもう一つの面心立方格子の重なりからなっている。そして、図4−4の点線で囲んだ立方体で示しているように、一つのシリコン原子の周りには4個のシリコン原子が結びついており、結合角度が109.5°をなす正4面体を形成している。以上のように原子の結びつき方によりいろいろな構造の結晶が存在するが、この結びつきに関与している電子の状態により、結合状態が異なり、共有結晶、イオン結晶、金属結晶、希ガス結晶、水素結合を持つ結晶などに分かれる。共有結晶(covalent bonded crystal)は基本的には元素周期律表(element periodic tableで4族に属するので、図4−6に示すように中心の原子の価電子(結合に寄与する電子valence electron)と隣接原子からの価電子と互いに一つづつ共有しあうことにより、それぞれの原子が電子について閉殻になり非常に安定な結晶になる。イオン結晶(ionic crystal)はNaClのように陽イオンNa+と陰イオンCl-との間での電気的な引力による結晶であり、非常に結びつきの強い結晶である。金属結晶(metallic bonded crystal)は共有結晶のように隣接原子の電子の共有ではなく、更に広範囲の原子からの自由電子の共有による結合からなる結晶である。希ガス結晶(rare gas)は希ガスが絶対零度あたりで結晶になる場合である。希ガス(He:へリュウム、Ne:ネオン、Ar:アルゴン、Kr:クリプトン、Xe:キセノン)は安定な原子から成り立っているが、安定な原子であっても、瞬間的には電気的双極子モーメント(electric dipole moment)が生じる。この誘起双極子モーメント・双極子モーメント相互作用、すなわち、ファンデ・デル・ワールス相互作用(Van der Waals interaction)による結合からなる結晶で、非常に弱い結合である。水素結合を持つ結晶(hydrogen bonded crystal)は水素原子は小さいので水素原子を挟んで2つの原子からなる結晶で、この水素原子の一つしかない電子が両側の原子に引き寄せられイオン結合的な結合により結晶が作られる。この結晶は高分子などにおいて見られる。

図4−4 簡単な基本的単位格子

図4−5 ダイヤモンド構造

図4−6 シリコン共有結晶の模式図とエネルギーバンド

4.a.3 結晶内での電子のエネルギー準位

シリコン原子内の電子は図4−7(a)に示すような電子軌道(electron orbit)に存在している。電子は14個あり、1s軌道に2個、2s軌道に2個、2p軌道に6個、3s軌道に2個、3p軌道に2個ある。ここで、3s、3p軌道の4個の電子が結合に寄与する。それぞれの電子軌道のエネルギー準位(energy level)は図4−7(b)に示すような関係で存在している。単体の原子内での電子のエネルギー準位は以上のようであるが、これが結晶状態になるとそれぞれの原子のポテンシャル(potential)が図4−7(c)に示すように低くなり、3s、3pの電子軌道が単体の時には単一のエネルギー準位であるが、帯状のエネルギー準位を持つようになる。そして、このエネルギー準位の上には伝導帯(conduction band)のエネルギー準位が存在する。伝導帯より高いエネルギーを電子が得ると固体から電子が飛び出て完全な自由電子になる。これが固体からの電子放射(electron emission)になる。

   (a)シリコン原子           (b)シリコン原子のエネルギー準位        (c)シリコン結晶内でのエネルギー準位

図4−7 シリコン原子と電子のエネルギー準位と結晶内での電子のエネルギー準位

4.a.4 固体内の電気伝導

シリコンは図4−6に示すように共有結合により強い結合になっていて、余分な電子などがなく室温ではほとんど絶縁体である。これに導電性を持たせるには光のようなエネルギーをシリコンに当てることにより、電子を光のエネルギーにより、価電子帯から伝導帯に電子を励起することにより、価電子帯(valence band)には正孔が、伝導帯には電子が生じ、電気伝導が生じる。光がなくなると電子と正孔とが再結合し、導電性がなくなる。このように一時的に電気伝導が得られる。この状態を真性半導体(intrinsic semiconductor)と呼ぶ。

これに対して常に導電性を持たせるために適当な不純物を添加した半導体を外因性半導体(extrinsic semiconductor)と呼ぶ。シリコンの場合は、図4−8に示すようにシリコンに5価の元素であるリン(P、ドナー準位0.044eV)、砒素(As、ドナー準位0.049eV)、アンチモン(Sb、ドナー準位0.039eV)などを不純物(impurity)として添加すると不純物がイオン化(ドナーイオンdonor ion)し、一つの電子が自由になり、伝導帯に上がりやすくなり、これが導電性に寄与する。ドナーのエネルギー準位は伝導帯の底より、少し低いところにあり、常温ではほとんどのドナーがドナーイオンになり、ほとんどの電子が伝導帯にあり、自由電子として振舞っている。これをN形シリコン(N−type silicon)と呼ぶ。

図4−8 N形シリコンの結合模式図とエネルギーバンド

また、図4−9に示すようにシリコンに3価の元素であるホウ素(B、アクセプタ準位0.045eV)、Al(アルミニウム、アクセプタ準位0.057eV)などを不純物として添加すると不純物がイオン化(アクセプタイオンacceptor ion)し、価電子帯の電子がアクセプタ準位に上がり、価電子帯に正孔が生じ、常温ではほとんどがアクセプタイオン化し、正孔が導電性に寄与する。これをP形シリコン(P−type silicon)と呼ぶ。アクセプタのエネルギー準位は価電子帯の少し上にある。

図4−9 P形シリコンの結合模式図とエネルギーバンド

伝導帯での電子数nは伝導帯のエネルギー準位密度(電子の入り得る座席数)G(E)と電子は一つの量子状態(座席)に1個しか入り得ない(パウリの排他律Pauli exclusion principle)ことによるフェルミ・ディラック分布関数Fermi−Drac distribution function(座席の占拠の仕方)P(E)との積をエネルギーEで積分をし、積分の底は伝導帯の底のエネルギー値Ecである。すなわち、次式になる。

  n=∫G(E)・P(E)dE                                 (4・a・13)

エネルギー準位密度G(E)はスピンも考慮すると次式になる。

  G(E)=4π(2me*/h23/2(E−Ec)1/2                    (4・a・14)

  ここで、me*は電子の有効質量(effective mass)

フェルミ・ディラック分布関数P(E)は次式になる。

  P(E)=1/[exp{(E−Ef)/kT}+1]                       (4・a・15)

  Efはフェルミ準位で分布の確率が1/2になるエネルギー値、kはボルツマン係数、Tは絶対温度

室温の場合はkTは0.026eVと小さいため伝導帯の電子のすべては伝導帯の底にあると近似できるため、シリコンの電子の有効準位密度Ncはシリコンのエネルギー構造が多谷構造(many−valley structure)であることを考慮すると次式になる。

  Nc=12(2πme*kT/h23/2                                            (4・a・16)

正孔の有効準位密度Nvは次式になる。

  Nv=2(2πme*kT/h23/2                             (4・a・17)             

以上の式を用いると電子の数nは次式になる。

  n=NcP(E)=Nc/[exp{(Ec−Ef)/kT}+1]                  (4・a・18)

ここで、 Ec−Ef≫kTの場合は次式のようなボルツマン分布関数(Boltzman distribution function)になる。 

  n=Ncexp{−(Ec−Ef)/kT}                            (4・a・19)

一方、正孔の数pは価電子帯での電子の収容できる数から、実際にそこにある電子の数を引いたものになり、次式になる。

  p=Nv(1−P(E))=Nv(1−1/[exp{(Ev−Ef)/kT}+1])         (4・a・20)

ここで、 Ef−Ev≫kTの場合は次式のようになる。

  p=Nvexp{−(Ef−Ev)/kT}                            (4・a・21) 

ここで、真性半導体の場合はn=Pであるので、式(4・a・19)と(4・a・21)とから次式が得られる。

   Ef=(Ec+Ev)/2+(kT/2)ln(Nv/Nc)=(Ec+Ev)/2+(3kT/4)ln(mh*/me*)      (4・a・22)  

上式は電子と正孔の有効質量は実際は等しくないが、等しいと考えた場合はフェルミ準位は禁止帯の中央すなわちエネルギーギャップをEgとすると、Ef=Eg/2である。また、室温ではNc=2.8×1019/cm3、Nv=1.04×1019/cm3である。さらに電子数nと正孔数pの積をとると次式になる。

  np=NcNvexp(−Eg/2kT)                            (4・a・23)

上式の電子の数nと正孔の数pの積はフェルミレベルEfには依存せず、温度Tにのみ依存する。そして、 np=Ni2 とおくとNiは次式なり、Niを真性キャリア濃度と呼ぶ。室温では1.45×1010/cm3である。

以上のようにN形シリコンにおいては電子が、P形シリコンにおいては正孔が電気伝導に寄与することが分かる。電子や正孔のキャリアが結晶中を動くとき、種々の衝突による散乱を受ける。最も大きい散乱は格子散乱(lattice scattering)で、格子の振動(lattice vibration)が量子化されたフォノン(phonon)との相互作用による。この格子散乱は温度を低くすると小さくなり、温度が低くなると影響が大きくなるのが不純物イオンによる不純物散乱、更には結晶欠陥などによる散乱がある。このような散乱をキャリアが受けるとその時点で、いままでの履歴を失い、散乱後新たに電界により次の散乱まで加速される。この電子の運動方程式(equation of motion)は次式のようになる。

   me*dv/dt=−qE                                 (4・a・24)

ここで、散乱から散乱までの平均時間(緩和時間)をτとすると平均速度<v>は次式になる。

   <v>=−qτeE/me* =−μeE                      (4・a・25)

ここで、μeは移動度と呼び、上式から次式が得られる。

   μe=qτe/me*                                  (4・a・26)

上式のように、移動度(mobility)μeは緩和時間(relaxation time)τeに比例しており、温度が下がれば散乱少なくなりτeが大きくなるため、移動度が大きくなる。以上のことが図4−10に示されている。不純物濃度が低い場合は格子散乱が大きいため温度に大きく依存している。また、不純物濃度が大きい場合は不純物散乱が大きいため温度にあまり依存しない。

図4−10 移動度の不純物、温度依存性(W.W.Gartner"Transistors,Principles,Design and Applications")

図4−11 ドリフト速度の電界依存性(C.Jacoboni et al."Solid-State Electron,20,77(1977))

キャリアの移動度は電界に依存する。このことは図4−11のドリフト速度の電界依存性に示されている。ドリフト速度は電界の低い領域では電界に比例しており、オーミックの法則が成り立っている。このときの格子散乱は音響的フォノン散乱(フォノンには音響的フォノンと光学的フォノンとがある)によるもので、更に電界が大きくなると光学的フォノ散乱による散乱もおこり電子のエネルギー散乱により奪われるようになり、電界の1/2乗に比例する。このような領域の電子を温かい電子と呼ぶ。更に電界が大きくなると光学的フォノン散乱によるものとなり、電子の奪われるエネルギーが非常に大きくなり電子速度は電界に依存しなくなり一定値に飽和する。この領域の電子は熱い電子と呼ばれる。

電気伝導はシリコンにおいて電子や正孔が移動することにより生じる。このキャリアの移動が電流になる。この電流は電界により流れるドリフト電流(drift current)とキャリアの濃度勾配により生じる拡散電流(diffusion current)によりなり、次式で表される。

      e=−q(μegradψ−Degrad)                      (4・a・27)

   h=−q(μpgradψ+Dpgrad)                      (4・a・28)

  J:電流密度   ;D:拡散係数(diffusivity)   ;添字eは電子、hは正孔  ;:電子濃度  ;:正孔濃度

また、キャリアの時間的変化、空間的変化、キャリアの生成(generation)、再結合(recombination)との間には次式のような連続方程式(equation of continuity)が成り立つ。

   ∂/∂t−(1/q)dive=Ge−Re                      (4・a・29) 

   ∂/∂t+(1/q)divh=Gh−Rh                      (4・a・30)

  G:正孔または電子の生成    ;R:正孔または電子の再結合

結晶中に電荷が存在する場合、または外部電界が印加されるとこれらの電界によりキャリアが影響を受け運動する。そこで、この電界を求めるにはポアソン方程式を解く必要がある。このポアソン方程式(Poisson’s equation)は次式で表される。

   div(εgradψ)=−q(+Nd−Na)                    (4・a・31)

     q:電荷量(magnitude of electrronic charge)   ;ε:誘電率(dielectric constant)    ;ψ:電位(electric potential)

電子、正孔の運動を記述するには電流の式、連続方程式、ポアソン方程式を解く必要がある。

アインシュタインの関係式(Einstein’s relation):式(4・a・29)において、電流が流れていない場合を考えると次式のようになる。

   μegradψ−Degrad=0                           (4・a・32)  

室温においては電子の濃度分布はボルツマン分布しているとすると、次式になる。

   =n0exp(−qE/kT)                             (4・a・33)

式(4・a・32)、(4・a・33)から次式が得られる。

   μe/De=q/kT                                 (4・a・34)

この式をアインシュタインの関係式と呼び、これは移動度と拡散係数の関係を示している。

図4−12 ホール効果

ホール効果(Hall effect):電子や正孔が磁場内を通過するとき、これらの荷電粒子は磁場により、ローレンツ力(Lorentz’s force)を受け運動方向と磁場の方向との直角の方向に力を受ける。この力は次式で表される。

 =qv ×                  :粒子の速度           (4・a・35)

図4−12に示すような短冊状のN形シリコンにx軸方向に電圧を加え、磁場を面に垂直方向に加えるとローレンツ力により電子が短冊の−y方向に押し寄せられる。これによりy方向に電界Eyが生じる。この効果をホール効果と呼ぶ。そして、この電界により両端に発生する電圧をホール電圧VHと呼び、VH=dExである。また、この電界Eyにより、電子にかかる力とローレンツ力により−y方向に押し寄せられる力とが均衡する。すなわち、次式が成り立つ。

  J=qnv=−qnμeEx                                (4・a・36)

  Ey=vBz=RHJBz                                  (4・a・37)

  RH=−1/qn                                    (4・a・38)

  θ=tan-1(Ey/Ex)=tan-1(−μeBz)                      (4・a・39)

式(4・a・38)におけるRHをホール係数と呼び、式(4・a・39)におけるθをホール角と呼ぶ。上式はN形シリコンの場合で、P形シリコンの場合は荷電粒子が正孔で、図4−12においては正孔は電子と反対側の+y方向に押し寄せられるため次式になり、ホール係数の符号が変わる。このようにホール係数を求めることにより、N形かP形かを判別することが出来る。

  J=qnv=qnμhEx                                (4・a・40)

  Ey=vBz=RHJBz                                  (4・a・41)

  RH=1/qp                                     (4・a・42)

  θ=tan-1(Ey/Ex)=tan-1(μhBz)                      (4・a・43)

また、シリコン中に電子、正孔の両荷電粒子が存在する場合のホール係数RHは次式になる。

  RH=(1/q)[(μh2p−μe2n)/(μhp+μen)2]              (4・a・44)

このホール効果においての移動度μは磁場内でのもので、磁場のない場合の移動度の値とは異なる。

上述の電気伝導は荷電粒子をマクロ的な捉え方をしたもので、これをミクロ的に取り扱うと量子力学的に見る必要がある。すなわち、結晶は規則正しい格子状に構成された原子からなっている。この結晶格子内を荷電粒子が運動する場合、周期的な結晶場を考え、粒子を波動として捉える。そこで、Blochは次式のシュレディンガー方程式のポテンシャルエネルギーに結晶場の周期性(periodicity)を持たせ、波動関数ψを求めた。

 ▽2ψ+(2m/2)[E−U]ψ=0                         (4・a・45)

    ψ=exp(i)uk(x,y,z)                          (4・a・46)

      i:虚数    :運動量   :位置変数

      u(x,y,z):kに依存すると共に格子の周期aを持つ周期関数    (4・a・47)

上式において、xについての一次式としてukをフーリエ展開すると次式になり、このときの波動関数ψは次式になる。

  uk(x)=ΕAnexp(−2πinx/a)                        (4・a・48)

  ψ(x)=exp(ikx){A0+Anexp(−2πinx/a)}               

      =A0exp(ikx)+Anexp(iknx)    kn=k−2πn/a      (4・a・49)

以上の式より次式が得られる。

  E=(1/2)[E0+En±{(E0−En)2+4UnUn*}1/2]     

     E0=22/2m   En=22/2m                  

     Un=(1/a)∫U(x)exp(2πinx/a)dx    Un*:Unの複素共役

     An=(2πUn/2)[An/{k2−(k−2πx/a)2}]          (4・a・50)

上式を運動量kについて図示すると図4−13のようになる。電子のエネルギーEは基本的にはkの2乗に依存するが、kが±nπ/aのところでは図のように不連続が生じエネルギーギャップが生じる。そして、電子の取り得るエネルギー領域がn個でき、この領域をブリリアンゾーン(Brillouin zone)と呼ぶ。n=1の領域を第1ブリリアンゾーン、n=2の領域を第2ブリリアンゾーンと呼ぶ。一般的には第1ブリリアンゾーンについてのみ考えるだけでよい。このような電子のエネルギー構造は非常に単純な場合で、実際には物質により複雑な結晶構造を持ち、上述のような簡単な周期性ポテンシャルではない。実際のシリコンの場合は図4−14に示されるようなエネルギー構造持つ。また、砒化ガリウム(GaAs)については図4−15に示す。斜線の部分は禁止帯で、禁止帯の上部が伝導帯で下部が価電子帯である。シリコンにおいては伝導帯の最下部はX点にある。これは<100>、<010>、<001>軸方向で、k=0とk=π/aの間にあり、図4−16に示すような状態である。これらの電子の伝導帯の構造を多谷構造と呼ぶ。そして、正孔は価電子帯のk=0、Γ点のところにある。

電子の有効質量はエネルギーのk依存性より、次式が得られる。

  m*ij=(h/2π)2(d2E/dkidkj)-1     i,j:x,y,z           (4・a・51)

上式と図4−16からシリコンの伝導電子は軸方向の電子の質量(mel*)が軸に垂直方向の電子の質量(met*)より大きいことが分かる。また、正孔においてはk=0近傍で2本の放物線があることから、質量がことなる正孔が存在することがわかる。重い質量の方をmhh*と記し、軽い方をmhlと記す。GaAsに代表される3・5化合物半導体のエネルギー構造は図4−15に示すようにシリコンと異なった構造をしている。特に電子の伝導帯が大きく異なり、GaAsの場合はk=0のところに伝導帯の最小値がある。このため電子がk=0のところに存在する。すなわち、平衡状態ではk=0のところに電子も正孔も存在する。シリコンの場合は電子はX点にあり、正孔はk=0のところにある。このことの違いにより、GaAsの場合は電子と正孔とが再結合をするときは何の介在も必要とせず直接再結合する。このため再結合のときに直接光のエネルギーが放出される(直接遷移direct transition)。これに対して、シリコンの場合は再結合するには電子のkと正孔のkが異なるためにフォノンなどの格子振動の介在が必要になり(間接遷移indirect transition)、エネルギーが熱などに変わり、直接的に放出されないため、GaAsのような光の放出はない。

図4−13 電子のエネルギーの運動量(kx)依存性

図4−14 Siのエネルギー構造(飯田修一ほか”物理定数表”より)

図4−15 GaAsのエネルギー構造(飯田修一ほか”物理定数表”より)

図4−16 伝導電子の等エネルギー面

図4−15におけるGaAsのエネルギー構造で上述の特徴に加えて、もう一つの特徴は通常の電子は上述のようにk=0のところにあるが、X点にも極小点がある。この極小点はk=0の点のエネルギー値より0.36eV上にあり、電子の有効質量m*はk=0ではm*=0.07m0で、X点では0.3m0でk=0点の方が約1/4ほどX点より小さい。すなわち、移動度μはk=0点がX点より約4倍速い。このことが、後述のガン効果を生じる。

ピエゾ抵抗効果(piezoresistance effect):図4−17に示すような方法で、シリコン板((100)面で<100>軸に長い)をプラスチックなどの板に接着し、プラスチック板に圧力を加えることにより、シリコン板の長軸方向に一軸性の張力を加え、板の抵抗を測定すると圧力を加えないときに比べて抵抗が変化する。この現象をピエゾ抵抗効果と呼ぶ。<100>軸に引っ張りの力を加えると<010>軸に圧縮される。このことにより、図4−16に示す<100>軸の伝導帯の谷が上がり電子が減少し、<010>軸の伝導帯の谷が下がり電子が増加する。そして、<100>軸方向にある谷の<100>方向の電子の移動度は小さく、<010>軸方向にある谷の<100>方向の電子の移動度は大きい。このため、電子の移動度の大きい<010>軸方向の電子が増加し、移動度の小さい<100>軸方向の電子が減少するため抵抗は減少する。逆に<100>方向に圧縮すると抵抗は増加する。この現象は圧力センサーとして利用される。(C.S.Smith:Phys.Rev.,94,42(1954))

ピエゾ電圧効果(piezovolt effect):図4−18に示すようにSi板を<100>軸に対してθの角度で切り出し、長軸方向に電流を流し、図4−17のように圧力を加え、一軸性の張力を加えてやると、上述のように伝導帯の谷の電子の増減により、長軸に垂直の方向にも電流成分が生じ、垂直方向に電圧が生じる。この現象をピエゾ横方向電圧効果と呼ぶ。この現象は角度θ依存性があり、θが0度のときは横方向電圧は現れず22.5度の時に最大の電圧が現れ、また、45度で電圧は現れない。(Y.Miyai et al.:Proc.3rd Conf. on Solid State Devices,191(1971))

図4−17 ピエゾ効果

図4−18 Si板の方向

4.b ダイオード

ダイオードは2電極からなるもので、代表的な構造は図4−19に示すようなPN接合ダイオード(PN−junction diode)がある。図4−19に示されているように、一方は周期律表において3価の元素のホウ素(B)やガリウム(Ga)を不純物として添加することにより、自由に動き得る荷電粒子が正孔(○印)であるP形シリコン(Si)結晶と他方はリン(P)や砒素(As)を不純物として添加することにより、自由に動き得る荷電粒子が電子(●印)であるN形シリコンの結晶とを接合させると接合部にはP形シリコン側では正孔がなく負イオン不純物のみで、N形シリコン側では電子がなく正イオン不純物のみが存在する荷電粒子のない空乏層(depletion layer)が形成される。このような状態で電源をP側を正にN側を負に印加するとP側の正孔はN側に、N側の電子はP側に流れ(注入injectionされ)、この結果、電流はP側からN側に流れる。この電流を順方向電流(forward current)と呼ぶ。また、電源をP側を負にN側を正に印加するとP側の正孔はP側の電極の方に押しやられ、N側の電子はN側の電極の方に追いやられ、空乏層(depletion layer)領域が広がるのみで電流はほとんど流れない(逆方向電流reverse current)。この状態をグラフに表すと図4−19の右図の電流電圧特性になる。この関係を式で表すと次式になる。

I=Is{exp(qV/kT)-1}                                                                  (4・b・1)

ここで、Is=qS{(Dhpn/Lh)+(Denp/Le)}で飽和電流(saturation current)と呼ぶ、qは素電荷で1.6×10-19C(クーロン)、kはボルツマン係数で1.38×10-23J・K-1、Dhは正孔の拡散係数、Deは電子の拡散係数、Lhは正孔の拡散長、Leは電子の拡散長pnはN側の正孔(N側の少数キャリアと呼ぶ)の濃度、npはP側の電子(P側の少数キャリアと呼ぶ)の濃度で、Sは接合部の断面積。このように、順方向電流(と逆方向電流(ほぼ0)で大きく異なる、すなわち、電流はダイオードの記号が示す方向の一方向しか流れない。この特性を利用するため図4−20に示すような回路にすると入力信号が正負の交流電源の場合、負荷抵抗から得られる信号は正の信号の部分のみとなる。この作用を整流作用(rectification)と呼ぶ。このように、PN接合ダイオードは抵抗やコンデンサやコイルのような受動素子とは異なり、新しい機能を持つ事になる。このような機能は図4−20のダイオードの後にチョークコイルやコンデンサをつなぐことにより直流電源を得ることができる。また、交流信号が高周波電波の場合は検波と言う機能になる。すなわち、放送局などからの電波信号から映像や音声信号を取り出す前の操作に必要な機能である。また、上述のように逆方向電流は飽和電流のほとんど流れない状態であるが、逆方向電圧をより負に大きくしていくと図4−19の電流ー電圧特性に示されているようにーVB(降伏電圧breakdown voltage)で急激に電流が流れ出す。これは空乏層領域内ある非常に少ない電子が空乏層内にかかっている非常に大きな電界により大きなエネルギーをもらい、加速されて結晶内のシリコン原子の殻内の電子殻外に飛び出させ、この現象が雪のなだれのように電子を大量に創出することにより電流が大きく流れるこれをなだれ電流と呼ぶ。この雪崩現象(avalanche phenomenon)を応用するとものとして定電圧回路がある。図4−21に示すような回路にすると入力電圧が降伏電圧(VB)以上になるとダイオードの方に電流が流れ負荷にはこれ以上の電圧はかからない。すなわち、負荷に定電圧が供給できる。このような機能を持つダイオードをツェナーダイオード(zener diode)と呼び、図に示されているような記号である。更に図4−19の下図のように逆方向に電圧を加えた場合、電流はほとんど流れず自由に動く荷電粒子がない空乏層はコンデンサの役目もする。この容量は印加電圧に依存する。この依存性は次式のようになる。 

C=[{εqNaNd/2(Na+Nd)}{1/(Vd−V)}n]   n:1/3、1/2        (4・b・2)

接合部の不純物濃度分布の状態でnがことなり、n=1/3の場合は直線傾斜接合(lenearly graded junction)で、n=1/2の場合は階段接合(step junction)である。ここで、Vdは拡散電圧で、εは誘電率、NaはP形不純物の濃度、NdはN形不純物の濃度である。更に、特殊な不純物分布を持たせることにより、非常に大きな容量の電圧変化を可能にする。すなわち、容量を電圧変化で変化させ共振周波数(resonance frequency)を変化させることができる。このことにより同調周波数を変えることができる。これは、TVやオーディオなどのチューナーに応用される。このような可変容量ダイオードをバラクタダイオード(varactor diode)と呼んでいる。

図4−19 シリコンPN接合ダイオードの構造図と電流電圧特性と記号

図4−20 ダイオードの整流特性

図4−21 ツェナーダイオードを使った定電圧回路

図4−22 ショットキーダイオードの構造図

もう一つのダイオードとしてショットキーダイオード(Schottky diode)がある。ショットキーダイオードは図4−22に示すような構造をしており、N形シリコン或はP形シリコン上に金やアルミニウム白金(Pt)などの金属を蒸着などで接合させると得られる。接合状態では接合部のシリコン側に空乏層ができ、荷電粒子(キャリア)である電子は空乏層にはない。この状態で金属側を正にN形シリコン側を負に電圧を印加すると電子は金属の方に流れ電流としては金属からN形シリコンの方に大きく流れる。この電流を順方向電流と呼ぶ。これに対して、金属側を負にN形シリコン側を正に電圧を印加すると電子はシリコン電極の方に引き寄せられ空乏層は更に厚くなり、非常に微少な電流しか流れなくなる。これを逆方向電流または飽和電流と呼ぶ。ショットキーダイオードの電流ー電圧特性はほぼPN接合ダイオードに似た特性を示す。ただ、PN接合ダイオードと大きく異なる点はPN接合の場合は上述のように電流は電子と正孔の2種類の荷電粒子により、順方向電流としては電子は正孔が多数を占めるP側へ、正孔は電子が多数を占めるN側に少数キャリヤとして拡散していくことによる。このため交流信号に対しては信号が逆方向に反転しても残留キャリアにより逆方向にも残留電流が流れ、交流周波数応答が悪くなり、高周波の検波などには欠点を持つ。これに対して、ショットキーダイオードの場合は図4−22に示されるようにPN接合ダイオードのような少数キャリアの注入はなく、一種類の多数キャリアが電流にかかわるため、交流周波数応答がよく超高周波の検波も可能になる。ダイオードの基本構造は以上の2種類で代表される。この基本構造をもとに上述の整流作用、検波作用のほかにいろいろな機能が生まれる。この一つに発電のところで既述したPN接合ダイオードに太陽光を照射すると電子・正孔対が発生しこれによる起電力、すなわち、太陽電池である。また、さらにいくつかの機能を以下に示す。W.Schottky:Naturuwissenschsften,26,843(1938).                          

LED(発光ダイオード、light−emitting diode):PN接合ダイオードにおいて順方向電圧を加えると上述のようにP形側から正孔がN形側に注入され、N形側から電子がP形側に注入される。この時、N形側に注入された少数キャリアの正孔はN形側にある多数キャリアである電子と徐々に結合して行き、ある時間、ある距離内で消滅していくこれを再結合と言い、消滅していく時間をライフタイム(寿命時間life time)τpと言い、距離を拡散距離Lpと言う。P形側に注入された少数キャリアの電子はP形側の多数キャリアである正孔と再結合して消滅する。この消滅していく時間をライフタイムτnと言い、距離を拡散距離Lnと言う。そして、この再結合のときに光や熱のエネルギーを放出する。放出すエネルギーが熱になるか光になるかはそれぞれの半導体の結晶構造(結合の状態)によって決まり、シリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)からは熱として放出される(詳しくはこれらは間接遷移による再結合による)。砒化ガリウム(GaAs)の場合は紫外線として放出される(詳しくは直接遷移による再結合による)。リン化ガリウム(GaP)の場合は赤色や緑色の光が放出される。AlGaAsやGaAsPやInGaPやInAlPなどの3元化合物半導体の場合は3元の組成の変化により放出される光の色が赤色から緑色の範囲が可能である。

光の色が物質により異なる理由を以下に説明する。PN接合ダイオードの幾何学的な構造は図4−19で示したが、これを電子が持つエネルギーの大きさで表すと図4−23のように示される。すなわち、N形半導体の場合は半導体原子の中の電子はしっかりと原子内に捕らわれているためエネルギーの低い状態の価電子帯にあります。これに対して半導体がシリコンの場合にはリンなどの不純物を添加すると不純物はイオン化し自由電子が創生されます。すなわち、自由電子はエネルギー的には高い状態で存在し、存在するところを伝導帯と言います。エネルギー的には伝導帯の少し下の所に+不純物イオンレベルがあります。このイオンをドナーイオンと呼びます。伝導帯と価電子帯とは不純物のレベル以外にはなく、この部分を禁止帯と呼ばれています。この間のエネルギー差をエネルギーバンドギャップ(energy band gap)と呼びます。一方、P形半導体の場合は半導体がシリコンの場合にはホウ素などの不純物を添加すると不純物はイオン化し、価電子帯の電子を捕り込んで正孔を創生します。このP形半導体とN形半導体を接合すると図4−105のような状態になり、P形半導体とN形半導体と電子の存在するエネルギー状態が一致し、外部より電圧を印加しないと電子や正孔の流れは生じません。これに対して、図4−24に示すように順方向電流が流れるようにP形側に正の電圧を印加すると、電子はN形側からP形側に、正孔はP形側からN形側に流れ込みます。ここで、P形よりN形の不純物の数を非常に大きくしておくとN形側からP形側に非常に多く流れ込む、流れ込んだ電子はP形側の正孔と再結合して消滅する。この再結合するときに電子がエネルギーギャップ(Eg)だけのエネルギーを失うこの失うエネルギーが光として表面から放出される。エネルギーギャップは半導体により異なり、ギャップの広いほどエネルギーの高い光を放出する。エネルギーが高いほど赤色から紫色方になる。すなわち、GaAsの場合はEg=1.42eVで赤外線を放出すし、GaPの場合はEg=2.26eVで緑色の光を放出し、GaNの場合はEg=3.39eVで青色の光を放出する。    

以上でLEDについて基本的なことを説明したが、現在は図4−24に示すような簡単な構造ではなく、光を効率よく発生させるために図4−25に示すような数層のヘテロ(異種の半導体)接合構造のダイオードを使っている。この場合はP形AlGaAsとP形GaAsとN形AlGaAsをN+形GaAs基板上に結晶成長させた構造で、AlGaAsはEg=2.17eVでGaAsより非常にバンドギャップが広く図4−25の右図のようなバンド構造を持つ。P形側に正の電圧を印加するとP形AlGaAsからP形GaAsに正孔が集まり、N形AlGaAsからP形GaAsに電子が集まり、非常に狭いP形GaAsのところで効率よく再結合し、正孔と電子は消滅して行き光を放出する。この場合の光は端面から放出される。LEDの応用は非常に多く、いろいろな装置などの種々の表示、計測器のデジタル表示、最近は高効率のLEDが赤から青までの色が開発され、交通信号器にまで使われるようになった。(R.J.Keyes and T.M.Quist:Proc.IRE,50,1822(1962).

図4−23 PN接合ダイオードのエネルギーバンド構造

図4−24 LEDのエネルギーバンド構造による原理

図4−25 端面高輝度LEDの例

図4−26 自然光とレーザー光

注入形レーザーダイオード(injection laser diode):注入形レーザーダイオードは図4−27で示すような構造をしており、層の構成としては図4−25のLEDともよく似ているが、更にP形GaAsの側面をN形AlGaAsで壁をつくり光の放出方向を一軸方向に絞り込んでおり、更に裏側の端面は酸化膜により光を反射させて一方向に放出するようにしている。LEDからの光はそれぞれの電子が正孔と再結合して放出する光それぞれが図4−26に示されているように同じ波長のものでも位相がばらばらでインコヒーレント光(不可干渉性光incoherent light)と呼ばれており、また、波長の分布も比較的幅広く広がっている。これに対して、レーザー光はそれぞれの電子が正孔と再結合する場合に誘導的に行われるため、波長の分布が非常に狭くシャープであり、かつ、それぞれの光の波の位相が揃っており、コヒーレント光(可干渉性光coherent light)と呼ばれている。R.N.Hall and et al.:Phys.Rev.Lett.,9,366(1962).

図4−27 レーザーダイオードの構造例

図4−28 フォトダイオードの原理図と電流ー電圧特性

フォトダイオード(photodiode):このダイオードは光の検出を目的としており、受光素子の一つである。これの原理は図4−28で示されているPN接合ダイオードで逆方向電圧を加えた状態で光がない場合は右図の負電圧印加の場合の電流で飽和電流と言う非常に微少な電流しか流れていないが、これに光をP側表面から当てるとP側表面やPN接合部に発生した電子はP側からN側に正孔はN側からP側に流れ電流は飽和電流より非常に大きな電流が流れ、光の検出が可能となる。W.W.Gatner:Phys.Rev.116.84(1959).

ガンダイオード(Gunn diode):ガンダイオードはGUNNによって発明された。ガンダイオードはGaAs(砒化ガリウム)、InP(燐化インジウム)などの化合物において見られる現象で、GaAsについて述べるとGaAsのエネルギー構造は図4−15に示しており、上述したように通常、電子が存在するのはk=0のところで、ここでの有効質量はm*=0.07m0で、0.36eV上のところのX点の伝導帯の極小点での有効質量はm*=0.3m0である。すなわち、移動度がk=0点の方がX点の方より3倍以上大きい。このため、シリコンの電気伝導とは大きく異なることになる。シリコンとGaAsの電流−電圧特性を図4−29に示す。シリコンの電流電圧特性は点線で示すように電圧の低い部分では電流が電圧に比例し、さらに高い電圧では比例直線からはずれ、電圧が高くなるほど飽和状態に近づく。これに対して砒化ガリウムの場合は電圧の低い部分ではシリコンと同じ状態になるが、高い電圧になると移動度の大きいのk=0点から電子のエネルギーが高くなり、0.36eV上のレベルの移動度の小さいX点に遷移し始めるために電流がピーク電流(Ip)から減少しはじめ、さらに電圧が高くなると共にX点への電子の遷移が増加し、ほとんどの電子が遷移して飽和電流Isat状態になる。すなわち、静特性において、図のような負性抵抗(negative resistance)が現れる。この負性抵抗の部分を使い、マイクロ波共振器(microwave resonator、12章の高周波で後述)に組み込むことで、マイクロ波発振が得られる。また、もう一つのモードとして、過剰電子のドメインの伝搬によるマイクロ波発振の原理として図4−30に示す。これは長さLのシリコン中で電子濃度の乱れが生じ濃度の過剰部分が生じた場合、過剰部において電界が大きくなり、移動度の高い状態で、電界が大きな部分が生じるとその部分の電子の移動度が低くなり、電子の過剰度が大きくなり、成長しながら、デバイスの端に走行して行く。これが、発振現象として外部回路に取り出さる。燐化インジウムもGaAsとエネルギー構造が似ているので、同じ働きをする。(J.B.Gunn:Solid State Comm.,I,88(1963))

図4−29 電流ー電圧特性

図4−30 ドメインの発生

インパットダイオード(IMPATT diode:Impact−Ionization−Avaranche Transit−Time Diode):これは図4−19に示すような通常のPN接合ダイオードの構造をしている。図4−19で示したようにPN接合ダイオードに逆バイアスを加えるとある電圧でダイオードは雪崩現象が起こり急激に電流が流れる。この電圧を降伏電圧VBと呼ぶが、この降伏電圧の近傍で、図4ー30に示すような交流電圧V0aが加えられた場合、これにより、降伏電流が1/4周期遅れて生じる。この降伏電流はPN接合部の最大電界部で生じ、この降伏電流が空乏層を走行する。この走行時間が1/4周期であれば、外部に流れる電流iはV0aに対して、1/2周期遅れることになる。すなわち、交流信号で負性抵抗を持つことになる。これをマイクロ波共振器に入れることにより、マイクロ波発振が可能となる。(R.L.Johnston et al. :Bell Syst. Tech. J.,44,369(1965).   Y.miyai et al.:J.Phys.Soc.Jpn.21.536(1966) )

図4−31 インパットダイオードの原理図

図4−32 インパットダイオードの発振原理

4.c トランジスタ

トランジスタは3電極からなるもので、これの代表的なものが図4−33で示すバイポーラトランジスタ(bipolar transistor)のNPNトランジスタである。バイポーラは電子と正孔の2種類の荷電粒子による作用からなることを意味している。原理的な構造は左図に示されているようにN形Si(エミッタemitter)、P形Si(ベースbase)、N形Si(コレクタcollector)からなっており、通常の不純物濃度は大まかにはコレクタでは1015〜1016個/cm3、ベースでは1017〜1018個/cm3、エミッタでは1019〜1020個/cm3程度である。ベース幅は1μmくらいである。通常の動作領域(活性領域active regionという)ではベースとエミッタとの間では順方向電圧が加えられ、コレクタとベースとの間では逆方向電圧が加えられる。このことによりベースからエミッタには正孔が注入され、エミッタからベースへは電子が注入される。エミッタからベースへ注入された電子はベースの厚さが非常に薄いので、電子はベースの中で再結合により消滅することがなくほとんどがベースを通り抜けコレクタの方に行き、コレクタ電流ICになる。このコレクタ電流 ICは次式で表される。

IC=Isexp(qVBE/kT)                                    (4・c・1)

ここで、Is=qDenp0/lb  lb:ベース幅   VBE:ベース・エミッタ間電圧     

ベース電流はベースからエミッタへ流れる正孔によるもの(IB1=qlBnp0/2τB   τB:ベース内での電子の寿命)とエミッタから注入された電子が微少ではあるが正孔と再結合すること(IB2=(qDhpn0/Lh)exp(qVBE/kT)によるが、これはエミッタからコレクタへ流れる電子による電流に比べれば非常に小さい。以上のことを式で表すと次のようになる。

IE=(IB1+IB2)+IC=IC          IC≫IB                  (4・c・2)     

ここで、IBとして小さい信号を入れるとコレクタから取り出される信号としてのICは非常に大きいので信号の増幅と言う上述のダイオードにはない新しい機能が得られる。この電流増幅率(βF:forward current gain )を式で表すと次式になる。

βF=IC/IB   βF=1/{(lB2/2τBDe)+(DhlBNa/DeLhNd)}    (4・c・3)

βFは通常50〜500程度である。上述の場合、IC−VCE(コレクタ電流ーコレクタ・エミッタ間電圧)特性の活性領域に見られるように逆方向電圧を大きくしても電圧はベースーコレクタ間の空乏層にほとんどが掛かるためコレクタ電流ICはほとんど変化しない。また、電流増幅率βもあまり変化しない。実際には図に示されているようにコレクタ電流ICは少しVCEに依存する。この理由は逆方向電圧が増加すると空乏層が増加し実質のベース幅が減ることになりこの場合の電流はベース幅方向の拡散電流によることから1/LB(LB:ベース幅)に比例するため逆方向電圧の増加により少しづつ増加する。この現象をアーリー効果(Early effect)という。この活性領域に対して、コレクタ・エミッタ間電圧を順方向電圧を加えた場合を飽和領域(saturation region)と言う。この場合はベースからエミッタとコレクタの両極に正孔が注入され、エミッタからの電子はコレクタへ、コレクタからの電子はエミッタに流れ、この合計としてコレクタ電流ICが流れる。図4−33のIC−VCE特性は静特性である。実際に電子回路においてはどのような特性を示すかは図4−34のような回路で測定ができ、このときのIC−VCE特性は図4−34のIC−VCE特性の点線で示されている負荷抵抗特性を示す。この特性を動特性と呼ぶ。以上に説明した特性をいろいろな電子回路に使うことにより、多くの異なった機能(電流・電圧・電力増幅、同調増幅、帰還増幅、発振、演算増幅、デジタル機能など)が得られる。トランジスタ動作の説明にはNPNトランジスタについて述べたが、これの記号は図中の左から三列目の上部に示しており、これの従来から製造されてきた素子の断面を四列目に示している。電極はエミッタ、ベース、コレクタと横方向に並んでいるが、実際の動作はエミッタの部分の縦方向に四角柱を切り取ったような状態で動作する。これは左端のトランジスタを90度時計方向に回転したものと同じ状態である。このような構造のトランジスタの製作方法を簡単に示すと以下のようになる。また、機会があれば後ほど詳しく説明をしようと思うので、専門用語の説明はここでは省く。            

まず、P形シリコンウエーハ(約厚さ0.65mm大きさ30cmφ)上に島状に砒素(As)を注入、拡散(〜1000℃)し、N+形シリコンを形成する。N形シリコンをエピタキシャル成長(〜800℃、〜10μm)させる。ホウ素(B)を注入、拡散させ、素子分離用(集積回路の場合それぞれ素子を回路的に独立にさせる)としてP形シリコンを形成させる。ホウ素(B)拡散させ、ベース用P形シリコンを形成させる。リン(P)拡散させ、エミッタ用、コレクタコンタクト用N形シリコンを形成させる。エミッタ、ベース、コレクタのコンタクト用に酸化膜除去する。アルミニウムを蒸着させる。アルミニウムを回路に従ったパターンに合わせ余分なアルミニウムを除去する。                                 

一方、PNPトランジスタはエミッタがP形でベースがN形でコレクタがP形の構造をしており、やはり、活性領域ではエミッタ・ベース間は順方向電圧でコレクタ・ベース間は逆方向電圧が印加され、電子がベースからエミッタに注入されエミッタからの正孔はベースを通ってコレクタに流れる。この動作により電流増幅作用が生じる。記号は図4−33に示されている。        

図図4−33 バイポーラトランジスタの原理的構造とIC−VCE特性と記号と代表的な構造

図4−34 動作特性測定回路

図4−35 NMOSFETの構造とID−VDS特性と記号

上記のバイポーラトランジスタに対して以下に述べるトランジスタはトランジスタにかかわる荷電粒子が一種類で電子のみか正孔のみのどちらかであり、これをユニポーラトランジスタとも呼ばれている。これには以下に述べるMOSFET、JFET、MESFETなどがある。

MOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field Effect Transistor=MOS電界効果トランジスタ):図4−35で示されているのはNMOSFETの構造で、P形シリコンの基板に一つの電極にN+形シリコン(ソース(S)sourceと呼ぶ)を持ち、もう一つの電極にN+シリコン(ドレイン(D)drainと呼ぶ)をもち、この両極間に酸化膜を介してアルミニウムの電極(ゲート(G)gateと呼ぶ)を持つ。ここで、N+は電子の濃度が非常に大きいことを示す。これの動作は以下のようである。ソースを接地し、ドレインを正の電圧(例えば5V)を加える。そして、ゲートに負の電圧を加えるとゲート直下のP形シリコンの表面には正孔が多く集まる(蓄積層accumulation layer形成)がソースおよびドレインとPシリコン基板とは逆方向電圧になり導通はなく、ソースとドレインとの間においても導通はない。ゲートを正の電圧にすると図4−35に示すようにP形シリコン側に空乏層はできるが、酸化膜との界面近傍に電子が生じる(反転層inversion layer形成)。生じた反転層の電子とソースとドレインのN形シリコンの電子とでソース・ドレイン間が導通する。すなわち、ソース・ドレイン間に電子のチャネル(channel)ができることになり、ドレイン電圧によりドレイン電流が流れる。ドレイン電流(ID)は次式で表される。

ID=μeCox(B/L)[(VG−2ψp−VDS/2)VDS−(2/3Cox)(2εsqNa)1/2{(VDS+2ψp)3/2     −(2ψp)3/2}]                                   (4・c・4)

ここで、   μe:電子の移動度   B:チャネル幅(channel width)   L:チャネル長(channel length)   Cox:ゲート酸化膜の容量   εs:Siの誘電率    qψp:P形シリコンのバンドギャップの中央からフェルミ準位までのエネルギー  VDS:ドレイン電圧   VG:ゲート電圧        

ドレイン電圧をさらに大きくしていくとドレイン近傍の電子は生じなくなり(反転層がなくなり)(ピンチオフpinch−offと呼ぶ)、ドレイン電圧を増加させてもドレイン電流は増加しなくなり(飽和と呼ぶ)、ドレイン電流ードレイン電圧特性に示すようになる。以上で説明したMOSFETは電子のチャネルのためNMOSFETと呼ぶ。これに対して、基板がN形シリコンでソース、ドレインがP+シリコンの場合でN形シリコンの界面近傍に正孔が生じるため、Pチャネルと呼び、PMOSFETと呼ぶ。MOSFETの記号は図4−35の右端に示している。ここではエンハンスメント形(enhancement type)とディプレッション形(depletion layer)と書いてあるが、これの違いはNMOSFETで説明すると上記のようにゲート電圧が正にした場合にチャネルができる場合をエンハンスメント形とよびゲート電圧が負の場合でもチャネルができる場合をディプレッション形と言う。このようにエンハンスメント形とディプレッション形の違いが現れる原因はゲート金属の仕事関数(φm:work function)とN形シリコンの仕事関数(φs)との差によるもので、φm<φs の場合にディプレッション形になる。ここで、仕事関数は結晶内の電子を外界に移すために必要な仕事または電圧でφで表す。MOSFETを通常MOSと省略して呼ぶ。

JFET(Junction Field Effect Transistor=接合形電界効果トランジスタ):図4−36に示されているように短冊状P形シリコンの左右の両極にソース(S)とドレイン(D)を備え、上下にN+形シリコンのゲート(G)を備えた形状である。上下のゲートに正の電圧を印加し、ドレインに負の電圧を印加するとゲートとソース、ゲートとドレイン間には逆方向電圧がかかった状態になり、図のようにP形シリコン内部に空乏層が存在し、特にドレイン近傍の方が空乏層が大きく広がった状態になり、ドレイン電流(ID)はドレイン電圧と共に増加する。

ID=G0{VDS−(2/3)(K1/a)(ψD+VGS+VDS)3/2+(2/3)(K1/a)(ψD+VDS)3/2}                                               (4・c・5)

ここで、 G0=2aσZ/L;  K1={2εs/qNa(1+Na/Nd)}1/2  Z:資料の厚さ  L:ゲート長  ψD:拡散電圧(built−in potential)  σ:導電度  2a:ゲート幅                                 

更にドレイン電圧を大きくするとついには上下の空乏層がつながり、そのドレイン電圧以降は電圧を増加させてもドレイン電流は増加しなくなる。このように電流飽和が生じるドレイン電圧をピンチオフ電圧と呼ぶ。JFET の場合はゲート電圧が0Vの場合がドレイン電流が最大になる。図の場合は基板がP形(正孔が荷電粒子)のためPチャネルJFETと呼ぶ。基板がN形(電子が荷電粒子)でゲートにP形シリコンを接合させた場合NチャネルJFETと呼ぶ。実際にシリコン基板で製造する場合は図のようなPチャネルJFETになる。これはバイポーラトランジスタの製造とほぼ同じであり、後述するがIC(集積回路)製造の場合にバイポーラトランジスタとJFETを共存させやすく、電子回路的にはバイポーラは入力インピーダンスが低いという欠点があり、これに対してJFETは入力インピーダンスが大きいという利点があるため共存の必要な場合には重宝である。これに対して最近ではMOSFETは更にJFETより入力インピーダンスが大きく、共存させるプロセスも進歩したためMOSFETを共存させる方が多くなっている。最近の電子応用機器(パソコン、携帯電話、SHFテレビなど)使用周波数がマイクロ波のように非常に高くなり、このためシリコンによるJFETはシリコンの電子の移動度が低いことにより、高周波数に対する応答が厳しくなってきており、これに代わって電子の移動度の高い化合物半導体によるJFETが使われるようになってきた。この例を図4−37に示す。化合物半導体の場合はゲートに金属を用いることが多い。すなわちショットキー接合である。このようなFETをMESFET(Metal−Semiconductor FET)と呼ぶ。半絶縁GaAsの基板上のN形GaAs(砒化ガリウム)の両端にソース、ドレインを持ち、ゲートに金などの金属をショットキー接合させている。ゲート金属直下の空乏層の変化によりNチャネルを制御する。電子の移動度についてシリコンの場合は1500cm2/V・secでGaAsの場合は8500cm2/V・secであり、GaAsはSiの6倍近く高い値を持つ。この移動度の大きさに従い周波数応答が良くなるのでGaAsがSiより非常に有利になる。さらにこのGaAsの有利さを大きくしたのがHEMT(Hight Electron Mobility Transistor)である。上に示した移動度の値は非常に不純物の少ない状態での値で電気伝導度の低い状態である。適度の電気伝導度を得るには不純物濃度を増やす必要があるが、これに反して不純物イオンとの衝突が増えるため移動度が小さくなる。そこで、適度な電気伝導度で高い移動度を得るためにはこのHEMTが目的に適っている。これには少し構造的に複雑になる。半絶縁GaAs基板上に不純物の少ない真性半導体(i−GaAs)をエピタキシャル成長させ、さらにその上にバンドギャップの広いi−AlGaAsと電子の供給源のN形AlGaAsをヘテロエピタキシャル成長させ、ソースとドレインにイオン注入によりN+(電子が非常に多い)の電極を作る。このようにすることにより N−AlGaAsから電子がi−AlGaAsに近いi−GaAsの側に供給され電子のチャネルを作り、適度の電気伝導率を得、移動度はGaAsの最高の値を得ることができる。ここで、ヘテロエピタキシャルとは基板とは異なった種類の元素の結晶を成長させることで、同じ種類の元素の結晶を成長させるのをホモエピタキシャルと言う。また、異なった元素同志の接合をヘテロ接合と言う。T.Mimura  et. al.:Jap.J.Appl.Phys.,19,L225(1980).

図4−36 JFETの原理と構造とI−V特性と回路記号

図4−37 MESFETとHEMTの構造

図4−38 SCRの構造、I−V特性、回路記号と等価回路

SCR(silicon−controlled rectifier、シリコン制御整流器):これは図4−38の構造に示すようにNPNPの4層からなっており、最初のN+がカソード(cathode)で、第2層のPがゲートで4層目のPがアノード(anode)となる。この構造はさらに図の右端に示されているように分解して考えることができる。すなわち、NPNPの4層構造はNPNトランジスタとPNPトランジスタを結合させたことと等価になる。この場合アノードに順方向電圧の正の電圧を印加する。ゲート電流を流さない場合はPN−接合部に印加電圧のほとんどがかかり、降伏電圧に近くなり、少しの電流が微少な電流が流れ始めるとNPNトランジスタの増幅作用により電流増幅が生じ、さらにPNPトランジスタも作動し、NPNトランジスタ、PNPトランジスタ共に飽和領域に入りアノード電圧が飽和電圧まで急激に降下し、I−V特性に示されるような特性、負性抵抗特性を示すようになる。I−V特性に示されている急激に電圧が降下するピーク電圧はゲートに流す微少電流の量が増えれば低くなる。アノードに逆方向電圧の負の電圧を印加する場合はゲート電流には関係なく順方向電圧の場合のような急激な電圧降下は生じず、従来のダイオードの降伏電圧でのなだれ電流が流れるだけである。上述の結果上図のようなI−V特性が得られる。この特性はゲート電流によるスイッチ特性として電子回路に応用される。このスイッチング特性を使う素子をサイリスタと呼んでいる。

 

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