徒然(電気雑記)

 

2 電気の発生

電気の発生としてはいろいろあるが、歴史的に初期に発見された琥珀と布の摩擦の静電気や雷のように雲の中で作られる静電気のようなものは短時間で消滅し、電源として実用的なものにはならない。現在の実用的なものとしては、直流電源として電池があり、交流電源としては動力源のほとんどを占める発電機がある。

2.a 電池

実用的な電池の種類は表2−1に示している。大きくは化学電池と物理電池がある。 化学電池(chemical battery)は+(正:プラス)電極とー(負:マイナス)電極(electrode)の2極とこの電極間にある電解物質(electrolyte)からなっており、各電極と電解物質との間の化学反応(chemical reaction)により、各電極の物質の種類、電解物質の種類によりそれらの物質特有の電位差が生じ、電気が作り出される。そして、これには、一次電池と二次電池がある。一次電池(primary battery)は化学反応が進みある一定の電気を作り出すとそれ以降は廃棄される種類の電池で、これに対して二次電池(secondary battery)は、化学反応が進み電気を作り出すことが出来なくなるとこれに外部から二電極間に電気を強制的に加えてやると逆の化学反応がおこり、元の状態に戻ることが可能な電池すなわち充電が可能で繰り返し使用可能な電池である。これらの一次、二次電池のほかに位置するものとして燃料電池がある。燃料電池(fuel cell)は水(H2O)に二電極を入れこれに電気を与えて電気分解(electrolysis)してそれぞれの電極から水素(H2)と酸素(O2)を取り出す工程の逆工程で水素を燃料極に与え水素イオンを生成し空気極で供給される酸素と結合してH2Oを生成することにより電気を発生する。以上の化学反応による電池に対して、物理電池(physical battery)は物理的な手段で電気を得る方法がある。詳しくは後で説明するが、太陽電池(sollar battery)や熱起電力電池(thermoelectromotive force battery)のように光や熱のエネルギーを半導体物質により電気に変換するもの、原子力電池(nuclear battery)のように放射性物質からのエネルギーを熱に変換し、これをもとにして熱起電力により電気を得る電池がある。さらに、研究段階ではあるが、生物電池がある。生物電池(biological battery)は微生物の代謝機能を利用したり、模擬することで電気エネルギーや化学エネルギーを得るものである。上述の電池の中で代表的なものについて、以下で少し詳しく述べる。

          |―一次電池―――ルクランシェ電池−−マンガン乾電池
          |      |−アルカリ電池−−−アルカリ乾電池
          |      |        |−酸化銀電池
          |      |        |−空気電池
          |      |        |−ニッケル系一次電池
          |      |−有機電解液電池−−−二酸化マンガン・リチウム電池
          |      |         |−フッ化黒鉛リチウム電池
          |      |         |−酸化銅リチウム電池
          |      |         |−二酸化鉄リチウム電池
          |      |−−−−−−−−塩化チオニル・リチウム電池
          |      |−−−−−−−−二酸化イオウリチウム電池 
          |      |−空気電池−−−空気亜鉛電池
          |      |      |−空気湿電池
          |      |−リザーブ電池−−−注液式電池
          |      |−溶解塩電池−−−熱電池
   |−化学電池−|――二次電池―――ーアルカリ蓄電池−−−密封形ニッケル・カドミウム蓄電池
   |      | (充電式電池)|         |−開放形ニッケル・カドミウム蓄電池
   |      |        |         |−ニッケル・水素蓄電池
   |      |        |         |−ニッケル・亜鉛蓄電池
   |      |        |         |−空気亜鉛蓄電池
   |      |        |−鉛酸系電池−−−鉛蓄電池
   |      |        |       |−小形シール鉛電池
電池―|      |        |−有機電解液電池−−−リチウムイオン電池
   |      |        |         |−金属リチウム二次電池
   |      |        |−ポリマー電池−−ポリマー・リチウムイオン二次電池
   |      |        |−電力貯蔵用電池−−−ナトリウム硫黄電池
   |      |                  |−レドックスフロー電池
   |      |                  |−亜鉛臭素、亜鉛塩素電池
   |      |――燃料電池−−−−−−−リン酸燃料電池
   |                  |−溶融炭酸塩燃料電池
   |                  |−固体電解質燃料電池
   |                  |−高分子電解質燃料電池
   |
   |−物理電池−|――太陽電池−−−−−−−シリコン太陽電池
   |      |           |−化合物太陽電池
   |      |―――――――熱起電力電池
   |      |―――――――原子力電池
   |
     |−生物電池―|―――――――酸素電池
          |―――――――微生物電池
表2−1 実用的な電池の種類(直流電源)((社)電池工業会のご案内.htmより引用)

図2−1 鉛蓄電池(二次電池)

図2−2 マンガン乾電池(一次電池)

電池の種類については表1に示されている。そして、この中の化学電池においては古くから実用化されており、原理的にも基本になるのが一次電池ではマンガン乾電池であり、二次電池では鉛蓄電池である。そこで、電池の原理を説明するのに、まず、二次電池の鉛蓄電池について行う。

この原型は1860年にプランテにより発明された。そして、現在、バッテリーとして自動車などに多く使われている。この原理図を図2−1に示す。鉛蓄電池(lead storage battery)は負(−)電極に鉛(Pb)板が使われ、正(+)電極に二酸化鉛(PbO2)板が使われている。そして、この2電極は希硫酸(H2O+H2SO4)の電解液中に浸されている。このような状態にすると、電解液中の硫酸イオンSO4-2が負電極の鉛Pbと結合し、硫酸鉛PbSO4を表面に生成し、2個の電子を電極に与える。これにより負電極で創られた電子は正電極の二酸化鉛PbO2の方に流れて行き、負電極においては流れてきた電子と二酸化鉛と水素イオンH+と硫酸イオンとが結合し、硫酸鉛を表面に生成する。この流れにより電流が正極から負極に流れる。以上の作用を化学式で示すと次式のようになる。

負電極において   Pb+SO4-2 → PbSO4+2e-    e-:電子        (2・a・1)

正電極において   PbO2+4H++SO4-2+2e- → PbSO4+2H2O      (2・a・2)

結果として、両極の表面には硫化鉛が生成される。この硫酸鉛は絶縁物なので電極がこれに完全に覆われ結晶化してしまうと電池としての役目は完全になくなってしまう。これが、完全放電の状態である。しかし、この電池に外部から電気を加えてやるすなわち充電してやると回復させることができる。すなわち、二次電池である。この充電の作用は正電極に外部の正電極を接続し、負電極に負電極を接続し、電気を印加してやると、負電極に電子を与えることにより、負電極の表面の硫酸鉛は上式の右から左への反応が起こり、鉛と硫酸イオンになり、鉛は負電極に残り、硫酸イオンは電解液中に戻る。一方、正電極では正電極より電子を奪うことにより、硫酸鉛は上式の右から左への反応が起こり、二酸化鉛と水素イオンと硫酸イオンになり、二酸化鉛は正電極に残り、下の状態に戻る。以上のような作用は他の化学電池においても類似しており、つぎのマンガン乾電池は外見上、そして、充電ができないというように大きく異なるように見えるが、上述の蓄電池を基本に考えると作用としては類似点があるため、理解がし易い。

マンガン乾電池(manganese dry cell)については図2−2に示している。1868年にフランスのルクランシェが開発したルクランシェ乾電池(Leclanche cell)を原型としており、正電極に炭素棒を中心棒として使い、正極の活物質に二酸化マンガンMnO2を使い、負電極に亜鉛缶を使い、電解液には塩化亜鉛、塩化アンモニウムを使っている。負電極の亜鉛缶から電解液に亜鉛イオンZn++として溶け出し負電極には電子が創生される。この電子は負電極から正電極に流れ、正電極の炭素棒を通して、正極活物質のところで二酸化マンガンと水素イオンH+と結合し、三二酸化マンガン水和物Mn23・H2Oになる。以上の作用を化学式で示すと次式になる。

負電極において   Zn → Zn+++2e-                        (2・a・3)

正電極において   2MnO2+2H++2e- → Mn23・H2O           (2・a・4)         

以上のようにマンガン電池は活物質が変化して、充電することにより可逆的にもとの物質に戻すことは不可能であるため、一次電池の範疇になる。

以上で二次電池の鉛蓄電池と一次電池のマンガン乾電池についての電池としての基本的な作用について説明したが、どちらにしても基本的な構造、作用は正負の2電極があり、電極間に電解液で満たし、負電極において電子を創生し、外部回路を通して正電極に電子が達し、正極で消滅するという作用になり、電解質がなまり電池のように完全に液体のもの、乾電池のように他の物質と電解液との混合のもの、或はゲル状の物質のものなどがある。形状においては特に近年は電化製品においては携帯を目的とした短小軽薄なものが追及され、それに使われる電源として種々の形状の電池が製品化している。形状に関しては大きくは筒形、角形、ボタン形、コイン形、ペーパー形がある。

次に代表的な電池について簡単に記述する。                                   

一次電池                                                         

アルカリ乾電池(alkaline dry cell):マンガン乾電池の電解液に水酸化カリウムが用いられており、二酸化マンガンもマンガン乾電池より多量に入れられており、電気容量としては非常に多きい。                      

二酸化マンガンリチウム電池(manganese dioxideーlithium cell):負極活物質にリチウムが使われ、正極活物質に二酸化マンガンが使われ、電解液にリチウムは酸素や水とは激しく反応するため、有機電解質が使われる。           

酸化銀電池(silver oxide cell):負極活物質に亜鉛が使われ、正極活物質に酸化銀が使われ、電解液に水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムが使われる。                                          

空気亜鉛電池(airーzinc cell):負極活物質に亜鉛が使われ、正極活物質に空気中の酸素が使われる。酸素といっても直接の反応ではなく、触媒としてマンガン酸化剤と炭素とテフロン粒子を界面活性剤の混合剤である。 

二次電池                                                         

ニッケル・カドミウム蓄電池(nickel・cadmium battery):負極活物質にカドミウム化合物が使われ、正極活物質にニッケル酸化物が使われ、電解液に水酸化ナトリウム水溶液が使われる。                             

ニッケル水素電池(njckel−hydrogen battery):負極活物質に水素吸蔵合金が使われ正極活物質にニッケル酸化物が使われている。    

リチウムイオン電池(lithium ion battery):負極活物質に炭素材料またはアルミニウムが使われ、正極活物質にリチウム金属酸化物(コバルト酸リチウムまたはマンガン酸リチウムなど)が使われ、電解質にリチウム化合物(六弗化りん酸リチウム)が使われている。

化学電池の一次電池、二次電池の概略について上述したが、もう一つのグループであり、最近非常に注目されている燃料電池がある。この燃料電池の基本原理は図2−3に示しているように、名前が示すとおり、燃料として水素と酸素を使いこれらを結合させて、水に変える工程において、電気エネルギーを得る方法である。これは水に負電極、正電極を浸し、この両極に電気を印加すると水が電気分解し、正電極から酸素が、負電極からは水素が得られる工程の逆工程に当たる。図に従って、少し詳しく説明する。燃料、水素H2を電池内に送り、燃料極の負電極において、白金などの触媒により水素を電子(e-)と水素イオンH+を生成し電子は負電極から正電極の方に流れる。水素イオンは水素イオンのみを通す電解質を通過し、空気極の正電極の方に行き、負電極から来た電子と空気極に送り込まれてきた酸素と結合し、水が生成され、外部に排出される。このときに熱も生じる。この熱は電解質の種類により大きく異なり、目的に応じて、使い分けることができる。すなわち、非常に高い熱が放出される場合はこの熱をさらに電気エネルギーに変換が可能であり、放出熱が非常に小さければ、最近注目されているパソコンなどの小型電気機器に応用が可能である。この電解質により、表1に示されているような種類がある。すなわち、リン酸燃料電池の場合は電解質がリン酸で放出熱温度は160−210℃、溶融炭酸塩燃料電池の場合は電解質は溶融炭酸塩で、放出熱温度は600−700℃、固体電解質燃料電池の場合は電解質は安定化ジルコニアで、放出熱温度は900−1000℃、高分子電解質燃料電池の場合は固体高分子膜で、放出熱温度は常温ー80℃である。得られる電圧は0.7Vであるため、必要に応じて、直列に積み重ねる必要がある。燃料としては図2−3に示すような純粋の水素の場合もあるがメタノール、ガソリン、天然ガスなどがあるが、これらを使う場合は燃料改質器でもって水素に変換して、使用する場合やメタノールなどのように直接燃料として使用する場合もある。直接水素を燃料として使う場合は高圧ガスボンベを使用する場合、液体水素を使用する場合、さらにより安全性のある水素吸蔵合金に水素をたくわえさせて、しようするばあいなどがある。水素吸蔵合金としてはMgH2、FeTiH2、LaNi5H6などがある。

図2−3 燃料電池

図2−4 太陽電池(e-:電子;h+:正孔)

電池には上述の化学電池のほかに表1に示すように物理電池がある。物理電池は物理現象を応用して得る電池で、このうちの太陽電池について以下で説明する。現在、電池として非常に多く使われるようになってきている。この太陽電池の中でも一番多く使われている材料物質はシリコンSiである。シリコンは半導体の代表的な物質で、すでに図1−5、図1−6、図1−7のところで簡単に説明をしているが、不純物を純粋シリコンに添加することにより、荷電粒子が電子のN形シリコンと正孔のP形シリコンになる。太陽電池は図2−4に示すようにP形シリコンの上にN形シリコンが作られた構造である。このような構造をPN接合ダイオードと呼ぶ。このような構造で種々の機能のデバイスが考え出されており、たとえば、整流ダイオード、検波ダイオード、ツェナーダイオード、フォトダイオード、LEDランプ、レーザーダイオード等々がある。N形シリコン中にはりん不純物添加により、りんイオン(+)と自由に動く電子(−)があり、P形シリコン中にはホウ素不純物添加により、ホウ素イオン(−)と自由に動く正孔(+)がある。これを接合させると電子はP形側のホウ素イオン(−)のため、正孔はN形側のりんイオン(−)のため接合部からそれぞれが遠ざけられ接合部近傍には電子も正孔もなくN形側にはりんイオンのみP形側にはホウ素イオンのみの領域、すなわち空乏層が形成されている状態である。このような状態に太陽光がN形側の表面から当たると図5で説明したようにシリコン中に電子と正孔が創生される。この創生された電子はN形側に正孔はP形側に蓄積される。そして、これらは外部回路を通して流れる。これが太陽電池の原理である。N形側の表面の電極には太陽光に対して透明な電極が使われている。シリコンを使った太陽電池が現在一番多く実用化されており、屋根の上のパネルなどに使われているが、同じシリコン材料でもシリコンの結合状態による種類の違ったものがある。基本のものは単結晶シリコンによるもので、次に多結晶シリコン、アモルファスシリコンがある。

単結晶シリコン(single crystal silicon):太陽電池パネルを形成する最小単位の約10cm角の板状のものがすべて図1−5で示すような格子状に規則正しく整列している状態の結晶状態である。このような単結晶シリコンは製造上は他のものより複雑であるためコストがかかるが、光から電気への変換効率が非常に良い。         

多結晶シリコン(polycrystal silicon):小領域が単結晶シリコンの集まりであり、これは製造上単結晶シリコンより作りやすいため現在ほとんどの太陽電池パネルに使われ、住宅用、オフィス用などに使われている。          

アモルファスシリコン(amorphous silicon):シリコン同士の結びつきが単結晶のように規則正しいものでなく、結びつき方が不定形なもので薄膜上に作りやすく、いろいろな形に成形しやすいので、電卓や時計などに多く使われている。                                                            

次にシリコン以外の物質で、比較的多く使われているのが単結晶化合物半導体で砒化ガリウムGaAs、りん化インジウムInPである。また、他に多結晶化合物半導体で硫化カドミウムCdS、テルル化カドミウムTeCdがあり、薄膜化しやすい特徴を持っている。

図2−5 熱起電力電池

図2−6 熱電式原子力電池

次に、熱起電力電池について説明する。エネルギー的には熱は光より小さいが、熱の発生は多くの場合に見られる。たとえば、火力発電、原子力発電などのように今までは、単に冷却水として外気に放出してエネルギーを無駄にしていたものをさらに効率よく電気エネルギーに変換できることになる。この目的のためにはN形半導体とP形半導体を用いる。そして、図2−5のように高温側にN形半導体とP形半導体の右端を同電極に接合し低温側にN形半導体の左端とP形半導体の左端とを置くと、N形半導体の方は高温側では熱により電子e-が非常に多く発生する。高温側で発生した電子は拡散により低温側に移動し、左端に到達する(この効果をゼーベック効果とよぶ)。このことにより左端は負電荷が蓄積される。一方、P形半導体の方は高温側で熱により正孔h+が非常に多く発生し拡散により低温側に移動し、左端に到達し、正電荷が蓄積される。このことにより、N形半導体の左端とP形半導体の左端とを回路で結ぶとN形半導体の左端は負電極となりP形半導体の左端は正電極となって外部回路に電流が流れる。これが熱起電力電池の原理である。ここで、低温側は通常雰囲気温度で高温側は種々の熱源になる。熱源もどのような熱源を使うかにより温度は大きく異なる。例えば300℃程度から1000℃程度まで考えられる。そこで、これに使われる半導体は最適温度があるため種々の半導体が使われている。よく知られているものとして低温領域(〜300℃)ではBi2Te3、中温領域(〜700℃)PbTe、高温領域(〜1000℃)SiGeなどがある。

原子力電池の代表的なものは熱電式原子力電池でこれは図2−6に示されている。ここで、ラヂオアイソトープというのは放射性同位元素のことである。図2では元素ナトリウムの原子構造を示しており、原子核と電子11個がある。そして、原子核の内部には電子の数と同じ数の陽子があり原子の通常の状態では電気的に中性である。また、陽子の数とほぼ同じくらいの中性子(電気的に中性)があり、陽子の数により原子番号が決まり、ナトリウムの原子番号は11である。原子の質量は陽子と中性子とで決まり、原子量と呼ばれる。原子量は質量数12をもつ炭素原子の質量12.000とし、これを基準として他の元素の原子質量を表す数である。同じ元素でも中性子の数が異なるものがあり、この原子量の異なる元素を同位元素と呼ぶ。そして、同位元素のうちで原子として不安定でそれ自身が崩壊し、他の同位元素に変化したり、他の元素に変化する場合がある。このような同位元素は崩壊の場合にエネルギーを放射する。すなわち、放射能を持つもつ放射性同位元素である。この場合の放射能はα線(ヘリウムの原子核に相当する)、β線(電子(陽電子を含む))、γ線(波長の短い電磁波など)であり、はじめの同位元素の数が他の同位元素または他の元素へ変化して行き元の数から1/e(〜1/2.72、0.368)に減少する時間を放射能の半減期と呼ぶ。元素の原子番号と原子量を表記するには例えば元素ナトリウムの場合基本原子は原子番号が11で原子量が23で11Na23のように書かれる。これに対して同位元素としては人工放射性同位元素ではあるが11Na2211Na24がある。原子力電池に使われるラジオアイソトープは当初はセリウム58Ce144、キュリウム96Cm242、ストロンチウム38Sr90であったが、プルトニウム94Pu238が利用されている。プルトニウムは放射能がα線がほとんどであるため、エネルギーの非常に高いγ線を遮蔽するための鉛Pbなどの金属の遮蔽ボックスの必要がなく小型の電池が実現できる。そして、プルトニウムの崩壊の半減期は87.74年である。放射性同位元素の崩壊のエネルギーにより熱が発生し、この熱を熱起電力電池の方に送ることにより、電気エネルギーに変換する。このような熱電式原子力電池が人工衛星などで使われており、特に太陽電池が使えない太陽から非常に遠い場所への人工衛星の場合に有効である。

生物電池は微生物などから発生する水素、メタンガスなどの可燃性ガスを燃料電池に使用したり、直接発生する熱を熱起電力電池に使用するなど、いろいろな研究が現在進行中である。

2.b 電力発電

電気の発生源として電池について説明してきたが、電池は比較的小さい電力の場合である。これに対して、我々の家庭に供給されている電気は大量の電力で、これには水力発電、火力発電、原子力発電、地熱発電、風力発電などがある。これらの電気は非常に高い電圧の交流電気を発生させいくつかの変圧器により200ボルトまたは100ボルトにして家庭に供給されている。この交流電気の発生の原理は図28に示す。これは既述のファラデの電磁誘導の法則から導かれるフレミングの右手の法則から求められるものである。磁石のN極とS極を対向して置くとN極からS極に向かって磁力線が存在するようになり、磁束密度Bが存在する。この磁束密度の中で自由電子が存在する銅線のコイルを角速度ωで回転させると交流電気出力が得られる。磁束密度内で導体が速度vで移動するとそこに生じる起電力e は次式になる。

 = ×                                        (2・b・1)

この場合 、 、 が大きさと方向をもつベクトルで  × はベクトル積である。a、bの長さをl、a、bの間隔dとすると辺a、b以外の辺は導線の方向と起電力方向とが直角のため導線方向に起電力は生じない。辺a、bのみが導線の方向と起電力方向とが一致する。そして、辺a、bでの起電力をe1、e2 とするとそれぞれの辺の速度方向が逆のため起電力が逆方向になり、結果的には                

全起電力e=e1+e2となりe1=e2なのでe=2e1となる。                             

磁力線と交差するためこの辺で起電力が生じる。ここで、コイルがBに垂直の時から回転すると考え垂直時からの傾きをθとすると起電力e1は次式になる。

e1=Blv・sinθ[V]                                   (2・b・2)

そして、コイルの毎分回転数をnとすると 速度v=πd・(n/60)[m/s] である。そこで、全起電力eは次式になる。

e=2πdlB・(n/60)・sinθ                             (2・b・3)

さらに時間依存性を考えると次式になる。

e=2πdlB・(n/60)・sinωt=2πdlB・(n/60)・sin(2πn/60)t     (2・b・4)

これより図2−8で示すような交流電圧が得られる。図2−7の場合は一巻きのコイルの場合であるが、N巻きのコイルの場合は上記の起電力のN倍になる。このことから発電機で得られる電圧はコイルの面積、磁束密度、回転速度、コイルの巻き数大きければ大きいほど高い電圧が得られる。図28では単相交流であるが、実際の発電は3相交流で交流周波数は西日本は60Hz(ヘルツ)で東日本は50Hzである。3相交流を得るためには原理的には図25でコイルを3個を設置し、それぞれのコイルの角度が120度になるように設置する。

以上のような原理で電気の発電が可能になる。すなわち、発電は磁界内でコイルを回転させることにより得られるので、このコイルをどのような力で回転させるかにより、いろいろな発電が可能になる。そして、この種類として、電力発電のはじめに記述したような種類がある。以下でこれらについて述べる。

図2−7 発電機の原理

図2−8 交流電圧

水力発電(hydraulic power generation) : 水力発電は図2−9に示すように川の上流の方でダムを建造し、貯水池を造り、この水を導水路に導き、発電所を下流に建設し、高さの差を利用して高水圧を得て、水圧鉄管を通して、水車(タービン)を回転させ、発電機のコイルを回転させて、電気を発生させる。この方法は発電の初期の段階から用いられており、自然の利用としては優れたものであるが、ダムの建造などは非常に膨大で、自然環境破壊の問題などで、最近は他の方法が主になっている。

図2−9 水力発電の模式図

図2−10 核分裂過程の模式図

火力発電(thermal power generation) : 火力発電は図2−11に示しているように、石炭、石油、天然ガスなどの燃料を燃焼させ、この高熱により水を高温高圧の水蒸気を発生させ、これによりタービンを高速回転させ発電機より電気を発生させる。タービンを通った水蒸気は復水器で外部からの冷却水で冷却し水に戻す。この方法は電力消費地に比較的容易に建造することができるため、現在の電力発生の主流であるが排気ガスによる大気汚染などの問題があるが現在は汚染を軽減するいろいろな試みがなされている。さらに天然ガスにより、大気汚染の軽減も大きい。

図2−11 火力発電の模式図

原子力発電(nuclear power generation) : 原子力発電は原子核分裂が起こる時に発生する熱を利用して高温高圧の水蒸気を発生し、これをタービンに導きタービンを回転させて発電する方式である。ここで、原子核分裂について簡単に説明する。原子力電池のところでは同位元素、放射性同位元素、原子崩壊についてのべたが、この原子崩壊を原子核分裂という。ところで原子力発電の場合は原子力電池の場合と違い非常に大きなエネルギーを必要とする。そこで、現在原子核分裂に使われている元素は92U235である。ウランという元素は天然元素の中で原子番号が一番大きく天然ウランとしては92238が99.3%で92235は0.7%で92238は核分裂はしないが中性子を吸収することでプルトニウムPuの原料となる。燃料として使うには92235が3〜5%で92238が95〜97%のものが使われており、ウランは安定な二酸化ウランとして使われる。そして、核分裂の過程としては図29に示されているように92235に中性子を当てると92236が生成される。この92236が核分裂してバリウム56Ba144とクリプトン36Kr89と中性子3個が生じ、分裂後の質量は減少し、減少した質量に相当するエネルギーが放出されることになり、このエネルギーEは減少した質量をmとすると E=mc2 になる。この過程で作り出された中性子が次の核分裂を引き起こすのに使われるので核分裂の連鎖反応がおこる。この連鎖反応をうまく制御するために制御棒があり、生成される中性子を制御棒で吸収し、連鎖反応が急激に増大しないように制御する。1gの92U235が核分裂すると火薬20t分のエネルギーを放出する。現在、日本にある原子力発電設備は軽水炉形(light−water reactor)で、軽水炉形でも図2−12の加圧水形と図2−13の沸騰水形があり、同じくらいの数がある。軽水炉形は中性子の減速材と冷却材に軽水(普通に使われている純水H2O)が使われている炉で世界で最も多く使われている。この軽水炉形に対して重水炉形(heavy−water reactor)がある、これは中性子の減速材として重水D2O(Dは水素の同位元素で12)が使われている。この重水は中性子に対して吸収が小さく、自然界には1/5000含まれている。                
加圧水形(pressurized water)は互いに閉回路水系である一次冷却系と二次冷却系とがあり、一次冷却系の原子炉から放出される高温水で二次冷却系の水を高温高圧蒸気に変えこの蒸気でタービンを回し発電する。

沸騰水形(boiling water)は原子炉内で高温高圧の蒸気を発生し、この蒸気でタービンを回し発電する。 

原子力発電については以上であるが、これの安全面については非常に重視すべきであり、一度大きな事故が発生すると取り返しのつかない重大な結果を生む。  

図2−12 加圧水形軽水炉原子力発電の模式図(原子力発電.htm参考)

図2−13 沸騰水形軽水炉原子力発電の模式図(原子力発電.htm参考)

地熱発電(geothermal power generation) : 地熱発電は地下1km〜3kmまで井戸を堀り、そこから放出される蒸気および熱水により得られる蒸気でタービンを回し発電するもので、日本では火山地帯が多いこともあり、有効な手段ではあるが、比較的小規模なもので数万キロWのものが多い。

風力発電(wind power generation) : 最近クリーンな発電として比較的注目されているもので、写真2−1に示すように風の力(風車)で直接発電機を回して発電する。写真は三重県の青山高原に設置されているもので、中部電力による。1基で750kwの能力があり、計24基あり、風車の直径は50.5m、中心部の高さ50m、標高800mである。このような風車は当然のことながら、年中比較的強い風力が必要で、地形的にはこのような高原や岬、島などに多く設置されている。

 写真2−1 風力発電

以上で各種発電についてのべたが、現在発電電力量の電源別構成を2002年現在で見ると原子力31.2%、石炭22.2%、天然ガス26.6%、石油10.2%、水力9.0%である。以上のほかにも波の上下運動を利用し、それにより起きる空気の流れでタービンを回し発電す波力発電などもある。

図2−14 発電所から使用者への交流電力の送電

図2−15 変圧器の原理

図2−16 電流と磁束との関係

送電(power trasmission) : 上記の発電所で発電された電気を使用者の元へおくるには送電が必要になる。発電所はほとんどが使用場所とは非常に離れているため、送電時に電力損失をできるだけ小さくし有効に電気を送る必要があります。このために送電線は電気抵抗の小さい銅線(体積抵抗率ρ:1.72×10-8Ω・m)が使われます。例えば、長さL:1000mで断面積S:1cm2の銅線の抵抗Rは次式になる。

R=ρL/S=0.172Ω                                (2・b・5)

これに同じ電力10KWを送るとき10KVで電流1Aの電力を送ると消費電力Wは次式になる。

W=I・V=R・I2=0.172ワット                            (2・b・6)

電圧降下は0.172Vです。これに対して、1KVで電流10Aの電力を送ると消費電力Wは17.2ワットで電圧降下は1.72Vです。このように長距離をそうでするには送電電圧を大きくするほど良いことが分かりますが、あまり電圧を高くしすぎると極端な場合雷図のように空気中の放電が起こり、送電線から電気が逃がされ損失が大きくなります。図2−14に示すような電圧で送電され各使用者に必要な電圧に変電所で変圧を行い供給されます。ここで、交流電圧の変圧すなわち、高い電圧から低い電圧に、または低い電圧から高い電圧に電圧を変える原理について説明する。図2−16に示すように閉回路Cに図の方向に電流が流れると図1−16でのアンペアの右手の法則により、磁束φが生じる。これにより図2−15に示すように、一次コイルに交流電源により電流i1を流がすとコイルに平行に磁束φが生じる。この磁束は鉄心に閉じ込められるため二次コイルの磁束φにもなる。このことから、ファラデの電磁誘導の法則から一次コイルに誘起される起電力e1はコイルの巻数と磁束の時間変化に比例するので次式になる。

e1=n1(dφ/dt)                                     (2・b・7)

 二次コイルの起電力e2は次式になる。

e2=n2(dφ/dt)                                    (2・b・8)

これらの式より次式が得られる。

e1/e2=n1/n2                                      (2・b・9)

すなわち、起電力の比は巻数の比になる。以上のことから、変圧器は一次コイルと二次コイルの巻数を変えることにより、希望の電圧が得られる。一般の家庭で使われる単相100Vに変換される前までは図38で示されるような三相で送られてきている。ここでの変電は図2−18のような原理で6600Vから100Vに変えられ、また200Vにも変えられる。  三相同士での変電は図2−19、2−20に示すような回路で行われる。

図2−17 三相交流電圧波形

図2−18 柱上変圧器の回路原理

図2−19 Y−Y接続の変圧器の三相接続

図1−20 △ー△接続の変圧器の三相接続

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1.電気の基礎

2.電気の発生  (電池;電力発電(水力、火力、原子力、地熱、風力))

3.交流電圧、電流、電力  (交流電圧、電流、電力;受動素子;アナログ計測;インピーダンス)

4.半導体素子    (半導体の基礎[原子における電子軌道、結晶、固体内の電気伝導]、PN接合ダイオード、ショットキーダイオード、LED、レーザーダイオード、フォトダイオード、ガンダイオード、インパットダイオード、バイポーラトランジスタ、MOSFET、JFET・MESFET・HEMT、SCR)

5.集積回路  (バイポーラ集積回路の例、CMOS集積回路の例)     

6.IC製造基盤  (シリコン結晶、ウエーハ製作、クリーンシステム)

7.IC製作前工程  (洗浄、ウエットエッチング、リソグラフィ、エピタキシャル成長、絶縁膜形成、ドライエッチング、不純物拡散、導電膜形成、真空)

8.IC製作後工程  (組み立て、検査、信頼性、IC環境試験、IC故障要因、評価解析)

9.電子回路(1)A:アナログA  (単一トランジスタ増幅回路、2段増幅回路、差動増幅回路、定電流電源と定電圧電源、出力段回路、演算増幅器)

10.電子回路(1)B:アナログB  (発振器、変調・復調回路)

11.電子回路(2)デジタル  (パルスの発生、積分・微分回路、論理演算回路、インバータ回路、NAND;NOR回路、フリップフロップ回路、カウンタ回路;レジスタ回路、メモリ回路、A/D;D/Aコンバータ、デジタルの基礎理論)

12.高周波回路  (電磁波、分布定数回路、導波管、方向性結合器、同軸導波管結合器、無反射終端、サーキュレータ、増幅回路、発振回路、衛星放送受信コンバータ、アンテナ)

 

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